物知り仮面

怪人 「フハハハハ……」


物知 「そこまでだっ!」


怪人 「うぬぅ、なにやつ!?」


物知 「私が駆けつけたからには、悪のはびこる事はない、その名も……」


怪人 「あっ! 物知り仮面!」


物知 「そうだ!」


怪人 「くそぉ、こんなところで物知り仮面に会うとは」


物知 「悪行もここまでだ。ついに貴様も……」


怪人 「年貢の納め時か」


物知 「そうだ!」


怪人 「しかし物知り仮面が現れたとてやられたわけではない」


物知 「フフフ、物を知らないやつだ。この物知り仮面の力は……」


怪人 「120万馬力だそうだな」


物知 「うん、そう」


怪人 「なんて恐ろしいやつ」


物知 「しかもスピードは!」


怪人 「マッハ10!」


物知 「そうだ。なかなか物知りじゃないか」


怪人 「えぇい! こしゃくなやつめ!」


物知 「おっと、これをくらえ!」


怪人 「ぐわぁ! 物知りキック! 秒間2000発を急所に叩き込むおそるべき技!」


物知 「う、うん」


怪人 「しかし、これしきのことではやられんぞ」


物知 「しからば、とどめだ! 必殺……」


怪人 「物知りスプラッシュビームだ!」


物知 「え~と、ちょっといい?」


怪人 「はい? なんでしょ?」


物知 「ちょっと言いすぎだな。俺の肝心な部分全部そっちが言っちゃってる」


怪人 「あぁ。すみません。つい」


物知 「なんかさ、どっちかっていうとそっちが物知りみたいな空気になっちゃってるじゃん?」


怪人 「あぁ、気がつきませんでした」


物知 「頼むよ。俺に物知らせてよ」


怪人 「以後気をつけます」


物知 「気をつけてよ、じゃ続きいくから」


怪人 「はい」


物知 「とうっ!」


怪人 「うわぁ。ちくしょう、ごまめの歯軋りだ!」


物知 「え? なにそれ」


怪人 「ごまめの歯軋り? 小さいものが敵にむかってもかなわないと知りくやしがることです」


物知 「へぇ」


怪人 「しかし、こんな時こそ窮鼠猫を噛む!」


物知 「じゃぁ俺は……」


怪人 「百里の道を行くものは九十里を半ばとす、つもりか!?」


物知 「え?」


怪人 「『百里の道を行くものは九十里を半ばとす』、気を抜かずに最後まで全力を尽くすことです」


物知 「う、うん。じゃ、それで」


怪人 「志半ばにしてこのようなところで朽ち果てるとは」


物知 「え~と、朽ち果ててる最中に悪いんだけどさぁ」


怪人 「はい?」


物知 「さっきの全然聞いてないじゃん」


怪人 「え?」


物知 「俺に物知らせてよ! 自分ばっかり格好いいじゃん」


怪人 「いや、でもやられてるし」


物知 「なんかやられるにしても、俺の魅力がまるで発揮されてない」


怪人 「はぁ、そうですか」


物知 「俺さ、本当に物知りなのよ。大学出てるのよ」


怪人 「はぁ」


物知 「近所でも物知りで評判なの」


怪人 「近所でですか」


物知 「そうだよ。物知りさん所の息子さんは本当に物知りですごいわねぇって佐藤さんのおばちゃんも言ってたもん」


怪人 「あの佐藤さんのおばちゃん! 佐藤みどり、54歳、趣味はスカッシュ!」


物知 「なんでお前が知ってるんだよ!」


怪人 「ひっ、すみません、つい」


物知 「もう、そういうのやめてよ。なにそれ? 自分アピール?」


怪人 「いや、そういうつもりじゃ」


物知 「じゃ、最後かっこよく決めさせてよ」


怪人 「わかりました」


物知 「ハッハッハ……」


怪人 「くぅ、俺なんて口ほどにもないやつだった!」


物知 「口ほどすぎるんだよ!」



暗転

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