送る
吉川 「あ、送ってくよ」
良子 「いいよぉ。子供じゃないんだから」
吉川 「いや、でも最近物騒だから」
良子 「そうなの?」
吉川 「ニュース見てない?」
良子 「あー、バカにしたな」
吉川 「別にそういうつもりは」
良子 「私の家にだってちゃんと電波届いてるんですからね!」
吉川 「いや、別に電波が届いてないとは思ってないよ」
良子 「金星からも届いてるし」
吉川 「その電波はやばいな」
良子 「で、その電波がどうかしたの?」
吉川 「電波は初めからどうもしてないよ。問題を巧みにすりかえないで。あと一応早めに病院に見てもらって」
良子 「なんだっけ?」
吉川 「ニュース。知らない?」
良子 「知ってるよぉ! 事件とか情報とかを扱う番組のことでしょ?」
吉川 「いや、ニュースの説明じゃなくて。それは多分知ってると思ってた」
良子 「もう、まどろっこしいなぁ。もっとストレートに言ってよ」
吉川 「まどろっこしたつもりはないんだけど。なんかこの近くで連続殺人事件が起きてるって」
良子 「ホント!? それじゃボヤボヤしてられないじゃない! 逃げなきゃ」
吉川 「いや、今じゃなくて。最近。もう四人も被害にあってるみたいだよ」
良子 「なんだぁ。じゃ、ボヤボヤしてられるね」
吉川 「別に無理にボヤボヤしなくてもいいよ」
良子 「でも私なら平気だよ」
吉川 「うん。なんとなく平気なような気がするけど、でもほら、変な人も多いからさ」
良子 「そうなの?」
吉川 「暖かくなると増えるじゃない?」
良子 「よぉし! 私も負けてられないなぁ」
吉川 「いや、ライバル視しなくていいよ。なにファイト燃やしちゃってるんだ」
良子 「こう見えても変な顔とか変な匂いには自信があるんだ」
吉川 「そんなものに自信持たなくていいよ。なんだ匂いって」
良子 「いざとなったら出すよ。威嚇するよ」
吉川 「匂いで威嚇するな」
良子 「スミ吐いて逃げるってパターンも練習中」
吉川 「それは哺乳類として踏みとどまってくれ」
良子 「だから大丈夫だよ。自己防衛にはちょっとした信頼と実績があるの」
吉川 「すでに実績まであるのか……」
良子 「だから平気。ありがとう」
吉川 「うん、でもやっぱり送ってくよ」
良子 「もう、しつこいなぁ。大丈夫って言ってるじゃん」
吉川 「わかってるけど……」
良子 「わかってたら引き下がりなさいよ。匂い出すわよ」
吉川 「本当に匂いで威嚇するのか」
良子 「この街がゴーストタウンになってもいいの?」
吉川 「そんなに!? そういうレベルの匂いなの?」
良子 「草木一本生えなくなるわよ。そうならないうちにお帰り」
吉川 「でも……」
良子 「んもう! 私にだって予定があるんだから」
吉川 「え? なにかあるの?」
良子 「こう見えても色々と多忙なんだから。ミリ単位のスケジュール」
吉川 「いや、そのスケジュールの単位はすごいな」
良子 「ミリバール」
吉川 「もうスケジュールの概念を超越しちゃってるな」
良子 「そのくらい忙しいの! だからここでバイバイ」
吉川 「いいじゃん。送ってくだけだし」
良子 「私のプライベートに干渉しないで頂戴」
吉川 「そんな言い方することないじゃん。それにプライベートだって……ちょっと知りたいし」
良子 「もう! 吉川くんたらしょうがないなぁ」
吉川 「えへへ」
良子 「わかった。吉川くんにも私の秘密教えてあげる」
吉川 「なに? どうせ月に帰るとかそんなのじゃないの?」
良子 「ううん。五人目になってもらうだけ……」
暗転
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