一子相伝
吉川 「君かね、我が教えを乞いたいというのは」
藤村 「はい」
吉川 「しかし、私の教えるものは一子相伝の殺人拳。そう易々と教えるわけにはいかん」
藤村 「心得ております。だがどうしても!」
吉川 「ほぉ。その面構え、どうやら覚悟の上らしいな」
藤村 「はい」
吉川 「よかろう。では二時間3000円じゃ!」
藤村 「は……?」
吉川 「二時間3000円のコースでどうじゃ!」
藤村 「いや、あの、一子相伝の殺人拳を……」
吉川 「だから二時間3000円なの! 払えんとでもいうのか? お前の覚悟はその程度か?」
藤村 「いや……っていうか。え? そういうものなの?」
吉川 「はっはぁ~ん。おぬしあれだな?」
藤村 「はい?」
吉川 「インターネットでクーポンをプリントアウトしてきたな? ならば二時間2800円じゃ!」
藤村 「えー。そんなクーポンまであるの?」
吉川 「驚いたか!」
藤村 「驚いたというか、嬉しくない裏切りというか……」
吉川 「よかろう。それではコースはウキウキダイエットコースでいいな?」
藤村 「いや、一子相伝の殺人拳で……」
吉川 「だから! 一子相伝殺人拳ウキウキダイエットコースでしょ?」
藤村 「えー? そういうコースなの? もっとなんていうか、ちゃんとしたやつが……」
吉川 「まさかおぬし! あれをやるつもりか?」
藤村 「はぁ……」
吉川 「しかしおぬしの身体ではどう考えてもキッズコースは無理があると」
藤村 「いや、違くて。え? キッズもあるの?」
吉川 「若いころから殺人拳に触れておくのは情操教育にとても言いと評判で」
藤村 「ダメでしょ! 子供に教えちゃ」
吉川 「子供は飲み込みが早いから、あっという間に殺しちゃうぞ」
藤村 「ダメー! そういうのはなんていうか凄いダメだ」
吉川 「じゃ、ウキウキダイエットコースで」
藤村 「なんでそんなコースしかないの?」
吉川 「人を殺しながら楽~に痩せられるんだよ?」
藤村 「いや、別に痩せなくていいですよ」
吉川 「一日30分のエクササイズで驚くほどの暗殺者に!」
藤村 「いやいや、そんな簡単になっちゃダメでしょ」
吉川 「あれか? ひょっとして信じてない?」
藤村 「はぁ……。はっきりいって信じられませんね」
吉川 「そういうのも無理はない。だが、これを見てもそう言ってられるかな?」
藤村 「なんですかそれは!」
吉川 「わしの5年前の写真じゃ!」
藤村 「いや……あの……」
吉川 「今より30kgも太っちょだったんだぞ」
藤村 「ダイエットの部分じゃなくて暗殺拳の部分をフィーチャーしてくれ」
吉川 「あー、そっちなら簡単。素人でもすぐできるから」
藤村 「そうなの!? っていうか、やばいでしょ。素人にすぐできちゃ」
吉川 「なんならその辺の人、ちょっと殺してこようか?」
藤村 「いやいや結構ですよ」
吉川 「自分死んでみる?」
藤村 「やですよ! なんでそんなぬるいノリで殺されなきゃいけないんだ」
吉川 「やってみればすぐにわかるから!」
藤村 「わかったころにはもう遅い!」
吉川 「まぁ、遠慮せずにお試し期間で無料だから」
藤村 「遠慮するよ! ただで殺されてなにが得なの?」
吉川 「いいんならいいんだけどさ。別にうちとしては殺しても殺さなくても」
藤村 「できれば殺さない方向性でなんとかしてほしいです」
吉川 「じゃ、とりあえず入門ということで、かる~く身体動かしてみようか?」
藤村 「そういうノリじゃなくて……なんていうかなぁ、もっとあるでしょ?」
吉川 「あー素人はすぐにそういうんだ。まずは楽しく痩せること。これが一番ね」
藤村 「いや、殺人拳を……」
吉川 「そんなの二の次だよ。カモンダンシング!」
藤村 「いや、ダンシングじゃなくて……」
吉川 「団しん也!」
藤村 「関係ないじゃないか! なんだ団しん也って」
吉川 「かる~く腕を回して、はい目潰し!」
藤村 「そういうのはちゃんとやるんだ」
吉川 「ヒップに意識を集中してぇ~」
藤村 「だからダイエットの部分は別にどうでもいいんですけど」
吉川 「馬鹿者! 贅肉を笑うものはさめざめと泣くぞ!」
藤村 「何に泣くんだ……」
吉川 「次はウエストをしぼる運動です」
藤村 「え~と……なんていうか、もういいです」
吉川 「え?」
藤村 「思ってたのと違うんで帰ります」
吉川 「む、このまま帰れると思ってるのか?」
藤村 「なっ!? なんですか急に」
吉川 「ここまできて無事に帰れると思ってか」
藤村 「はっ!? まさか……」
吉川 「リバウンドするぞっ!」
藤村 「別にそれはいいから」
暗転
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