壺
教授 「ついに発見じゃ」
吉川 「やりましたね。教授」
教授 「ここまでの道は長く険しく香ばしかった」
吉川 「どの辺が香ばしかったのかちょっと記憶にないんですが……」
教授 「しかし、これこそが古代から時の権力者の手を渡り歩いてきたともっぱらの噂が巷でまことしやかに囁かれつつありつつも芳醇なコクとそれを補って余りある……」
吉川 「教授! なに言ってるかわからなくなってます!」
教授 「おぉ! わしとしたことが、あまりのことにトランスしてしまった」
吉川 「そんな日常ノリでトランスしないで下さいよ」
教授 「ともかく、そんな神秘のベールに包まれた壷だ」
吉川 「どんな壷ですか」
教授 「願い事が一つだけ叶うという幻の壷じゃ」
吉川 「そんな……都合いい」
教授 「だろ? 都合がいいんだ。飛び切り都合がいい壷だ」
吉川 「それがこの壷ですか?」
教授 「いかにも願い事が叶いそうな壷だろ?」
吉川 「怪しいことは怪しいですけど」
教授 「ここの流線型ボディが願い事叶いそ感満点じゃな」
吉川 「叶いそ感ですか。なんか、嘘っぽいですけどね」
教授 「なんだと! じゃ、そんなこと言うならあれな」
吉川 「なんですか?」
教授 「もし願い事が叶ったら、吉川くんわしの言うことなんでも聞けよ!」
吉川 「なんでですか。願い事叶うなら僕がなにかしなくてもいいじゃないですか」
教授 「そうだけど、身の回りのこまごまとしたこととか」
吉川 「壷にかなえてもらいなさいよ」
教授 「壷には無理なこととか!」
吉川 「そんなの僕だって無理だ!」
教授 「吉川くんの意気地なし!」
吉川 「意気地の問題じゃないでしょ」
教授 「まぁ、本物かどうかは使ってみれば一目瞭然じゃ」
吉川 「ところで、なにを願うんですか?」
教授 「フフフ。そこがわしの頭のいいところだ」
吉川 「いったいどこらへんがどう頭がいいんですか?」
教授 「今日はバッチリ決めてきたんだけど」
吉川 「髪型か。具体的な形のよさか」
教授 「あのな、願い事は一つしか叶わないんだ」
吉川 「そうらしいですね」
教授 「ということは……。うぷぷ」
吉川 「あー、なんかわかってきちゃった」
教授 「言わないの! わしが先に考えたんだから」
吉川 「馬鹿馬鹿しくて言う気にもならないけど」
教授 「いくつもの願い事を叶えるようにしてくださいって願っちゃうの!」
吉川 「やっぱり」
教授 「ね? どう? 頭いいでしょ」
吉川 「今日はバッチリ決まってますね」
教授 「そっちか! 髪型か!」
吉川 「自分で言ったくせに」
教授 「というわけで願いを言うぞ」
吉川 「どうぞ」
教授 「いくつもの願い事を叶えるようにしてください!」
吉川 「……」
教授 「……叶った?」
吉川 「さぁ」
教授 「開けてから言うんじゃないの?」
吉川 「そうかもしれませんね」
教授 「これ……硬っい!」
吉川 「貸してください」
教授 「硬くて開かないよ」
吉川 「この……開……」
教授 「待った!」
吉川 「なんですか?」
教授 「今までのパターンからすると、開けと願いながら開けたらそれが願い事で叶っちゃって終わりってパターンだ」
吉川 「わぁ、ひどいいんちき」
教授 「だから無心で開けるんじゃ」
吉川 「無心て言われても、そう言われるほど考えちゃいますよ」
教授 「だからそんな時のことを考えてこれを用意した」
吉川 「なんですか? 巨大なペンチみたいな」
教授 「ビンの蓋開け機」
吉川 「わぁ。もってまわったアイテム」
教授 「王様のアイデアで買って来た」
吉川 「願い事とか神秘のベールとかぶち壊しだな」
教授 「これで開けて」
吉川 「おぉ! これはすごい! グッとグリップします」
教授 「だろ? なんせ王様のアイデアだから」
吉川 「おぉ! キュポッと開いた!」
教授 「王様のアイデアだもんな」
吉川 「教授! 中から!」
教授 「どうした! なにが出てきた?」
吉川 「……一回り小さな壷が」
教授 「はっは~ん。そういうことか」
吉川 「どういうことですか?」
教授 「その壷を開けてみればわかる」
吉川 「教授! さらに小さな壷が!」
教授 「つまり、いくらでも願い事が叶うということは」
吉川 「おぉ! もっと小さな壷が中から!」
教授 「いくつも壷が出てくるという……」
吉川 「教授。さらにロシアの歴代大統領の顔が書いてある人形が」
教授 「え……」
暗転
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