サイコダイバー

吉川 「とにかく、大変危険が伴う行為なわけです」


藤村 「そのぉ、私は素人なもんでよくわからんのですが。その、ナイトフィーバー?」


吉川 「サイコダイバーです」


藤村 「その茶色サイダーは」


吉川 「サイコダイバーです! なんですか茶色って」


藤村 「コーラみたいなもんかと」


吉川 「サイコダイブ。精神に潜り込むことです」


藤村 「それがちょっとわかりづらくて」


吉川 「相手の、この場合は被疑者になるのですが、自我境界線を越え、自我に侵入します」


藤村 「はぁ」


吉川 「そして相手自身になり記憶を読み取るのです」


藤村 「その自我境界線というのが……」


吉川 「人は誰しも自分が自分であるという意識をもってます。それが他人と自分を分かつ壁になるわけですが、それを自我境界線といいます」


藤村 「つまり……人は誰しもヌリカベであると」


吉川 「全然違います」


藤村 「砂かけ婆であると!」


吉川 「余計違います」


藤村 「わかった! ネズミ男!」


吉川 「全然わかってない! そういうことじゃないんだよ」


藤村 「一反木綿?」


吉川 「妖怪じゃない。人は誰しも人だ!」


藤村 「う~ん、深いな」


吉川 「そこはそんなに深い場所じゃない」


藤村 「要するにあれでしょ? その人の脳味噌に潜り込むんでしょ?」


吉川 「脳味噌というか、精神です」


藤村 「そっか。じゃぁチャッチャとやってみてよ」


吉川 「いや、だから慎重にやらないと危険なんですって!」


藤村 「なにが?」


吉川 「なにがって、相手の意識に取り込まれることもあるわけです」


藤村 「帰って来れなくなるの?」


吉川 「そうです」


藤村 「ヌリカベに閉じ込められるんだな」


吉川 「違います。もし相手に大きな心的外傷があった場合、そのダメージはサイコダイバー自身にも降りかかります」


藤村 「ヌリカベが襲ってくるんだ!」


吉川 「ヌリカベは出て来ないっ!」


藤村 「子泣き爺だ!」


吉川 「……」


藤村 「……ゴメン」


吉川 「他にも、心に大きな迷いがある場合、無限回廊となり中に閉じ込められる場合もあります」


藤村 「エロは?」


吉川 「は?」


藤村 「もし潜った相手がすっげーエロいこと考えてたら」


吉川 「それは……それも見ることになりますけど」


藤村 「超エロくて帰ってきたくなくなるかもね」


吉川 「そんなことはないっ!」


藤村 「だって凄いエロいんだよ? しかも精神の中だから美化されてるの」


吉川 「私はそんなものには興味ない!」


藤村 「あ、アブノーマル系?」


吉川 「失敬な! ノーマルだ!」


藤村 「じゃ、危ないよ。エロには気をつけな」


吉川 「は、はぁ……」


藤村 「エロくてもちゃんと帰って来るんだよ」


吉川 「言われなくても帰ってきますよ!」


藤村 「それでは、この被疑者の記憶を探ってきてくれ」


吉川 「わかりました」


藤村 「頼んだぞ」


吉川 「まかせてください」


藤村 「気をつけて」


吉川 「……」


藤村 「吉川くん? 吉川くん?」


吉川 「……」


藤村 「もう潜ったのか?」


吉川 「……」


藤村 「まったく。サイコダイバーだかなんだか知らないけど、イタコみたいなもんか? 犯罪捜査も随分いんちき臭いもんに頼るようになったな……」


吉川 「なんてこと考えてたのか……まぁ、これで信用するだろう。この男も」



暗転

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