目玉

吉川 「……っえ!?」


目玉 「なんだったら父さんて呼んでいいよ?」


吉川 「いやいや、ちょ……ちょっと待ってよ」


目玉 「照れてるのか?」


吉川 「照れてるとかじゃなくて。えー? 目玉でしょ?」


目玉 「目玉だよ」


吉川 「なんでしゃべってるの?」


目玉 「目は口ほどにモノを言うんだぞ」


吉川 「いやいや、そんなトンチっぽい答えじゃなくてさ、俺の……目玉?」


目玉 「そんなに見つめるなよ」


吉川 「ダメでしょ! 取れちゃ」


目玉 「しょがないじゃん。取れちゃったんだから」


吉川 「しょうがなくないよ! 普通取れないじゃん!」


目玉 「あのな、冷静になって聞け」


吉川 「とても冷静じゃいられない」


目玉 「コンタクトのCMでやってるだろ? 目は呼吸してますって」


吉川 「あぁ、見たことあるけど」


目玉 「父さん、たまには外の空気を吸いたくなった」


吉川 「いや、だからって出てきちゃダメだよ!」


目玉 「コンタクトと一緒にでてきちゃった」


吉川 「ちゃった、じゃなくて。なんでそんな軽いノリなの?」


目玉 「そんな深刻に考えるなよ」


吉川 「考えるよ! 目玉取れちゃったんだよ! 病院行かなきゃ」


目玉 「アイパッチもらわないとな」


吉川 「違う! そういう問題じゃない。というか、なんであなたは意思があるんだ!」


目玉 「そりゃ、父さんだからな」


吉川 「父さんじゃないよ! そんな目玉を父にもった覚えはない!」


目玉 「なにぃ! それが父に対する言葉か!」


吉川 「だから、父じゃないって!」


目玉 「そんなこと言うと、大目玉を食らわすぞ!」


吉川 「……」


目玉 「どう? どう? 本日の目玉ギャグ」


吉川 「俺の目玉ってこんな煩わしいやつだったのか」


目玉 「まぁ、ほら、落ち着いてさ。茶碗の風呂とか入ろうよ」


吉川 「なんでお前はそんなにリラックスムード満点なんだ」


目玉 「じたばたしてもしょうがないじゃん」


吉川 「じたばたするよ!」


目玉 「父さんのなにが気に食わないんだ!」


吉川 「父さんじゃないし! 目が出てきてるし! しゃべってる!」


目玉 「ヘレン・ケラー並みの三重苦だな」


吉川 「そんなケラーは見たことない」


目玉 「わかったよ。後で戻るから」


吉川 「戻れるの?」


目玉 「余裕だよ。スポってはいるよ。とりあえず戻るまでピンポン球でもいれておけば?」


吉川 「なんでそんな面白い状況を演出したがるんだ」


目玉 「もう、そんな落ち着きのない子に育てた覚えはないぞ」


吉川 「育てられた覚えなどない!」


目玉 「もっと妖怪のこととか質問してよ」


吉川 「そんな質問してる状況じゃないし、生まれてこの方、妖怪のことで困ったことなどない!」


目玉 「ノリが悪いよね? もっとさ、父さん! 妖気です! とかやってよ」


吉川 「だって……だって……俺の目がーー!」


目玉 「泣くなよ! 俺がビショビショになっちゃうだろ」


吉川 「そんな事情知るか」


目玉 「そこら中、ビショビショにして回るぞ」


吉川 「うぅ……」


目玉 「まったく。とりあえず茶碗風呂だけでいいから頼むよ」


吉川 「自分の目玉にお願いされるとは思わなかった」


目玉 「夢だったんだよ。目玉に生まれたからには茶碗風呂は一生の夢」


吉川 「目玉に生まれる人生などない!」


目玉 「なっちゃったんだからしょうがないじゃない?」


吉川 「はい。これでいい?」


目玉 「そうそう。これこれ。って熱い! 熱すぎる! バカか」


吉川 「熱かった?」


目玉 「熱すぎるよ。これじゃお前、目玉焼きのなんか茹でた……ゆで卵みたいな、目玉茹でみたいな」


吉川 「なに言ってんだか全然わからないよ」


目玉 「あれだ! ポーチドエッグ! あれになっちゃう!」


吉川 「あれは卵だ」


目玉 「似たようなもんだ」


吉川 「いや、俺の目玉と卵を勝手に似せないでくれ」


目玉 「とにかく熱い! 蛋白質の凝固温度は65度だぞ!」


吉川 「うめりゃいいんでしょ。手のかかる目玉だなぁ」


目玉 「まったく。常識を知らない息子だな」


吉川 「だから息子じゃねーって」


目玉 「まぁいいや。今回だけは特別に許す」


吉川 「大目にみてくれるってわけか」


目玉 「いや、目をつむるよ」


吉川 「まぶたはこっちについてるんだからな」



暗転

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