ぺてんし

指令書

藤村　「なんて書いてあるの？」

吉川　「スパイを殺せ」

藤村　「スパイ？」

吉川　「あぁ……」

藤村　「スパイって？」

吉川　「どうやら、お前とのコンビもここまでだな」

藤村　「どういうこと？」

吉川　「こういうことだ！」

藤村　「ちょっ！　待てよ！　なんだよいきなり」

吉川　「ここに書いてあるんだよ！　スパイの名が」

藤村　「何かの間違いだろ！　俺スパイなんてしてないよ」

吉川　「ほぉ、言いたい事はそれだけか？」

藤村　「えっと……良子ちゃんのこと、ずっと前から好きでした」

吉川　「なんだ急に！」

藤村　「いや、言いたいことって言われたから、勇気出してみた」

吉川　「急にそんなこと言うな！」

藤村　「お前だって急に俺を殺そうとするな！」

吉川　「いやいや、だって指令に書いてあるんだもん」

藤村　「じゃ、なにか？　指令に書いてあれば何でも従うのか？　うんこ食えって書いてあったら食うのか？」

吉川　「そんなこと書いてないもん！」

藤村　「もしかしてだよ！」

吉川　「食わないよ！」

藤村　「じゃ、一緒じゃん。俺を殺すこと無いじゃん」

吉川　「お前はうんこか！」

藤村　「例えばだよ！　俺はうんこじゃない」

吉川　「例えお前がうんこじゃなかったとしても、俺はお前を殺さなくてはならない」

藤村　「たとえって。俺はうんこじゃないからな！」

吉川　「わかってるよ。お前がうんこだろうとスパイだろうと関係ない。ここに名前が書いてある以上、俺はお前を殺さなくてはならない」

藤村　「そんなの理不尽だ！　じゃ、あれか？　そこに本日限り激安市って書いてあったら、お前は買いに行くのか！？」

吉川　「なんだいきなりわけのわからない」

藤村　「だから、もしそれがスーパーの広告だったらお前はスーパーに行くのか！　ってことだよ」

吉川　「行かないよ」

藤村　「だろ？」

吉川　「だろ。じゃない。何の理屈にもなってない」

藤村　「だってお前はその指令に従うんだろ？」

吉川　「スーパーの広告は指令じゃない」

藤村　「お一人様三パックまででもか！」

吉川　「何パックでも同じことだ」

藤村　「じゃ、俺を殺す必要も無いじゃん？」

吉川　「いやいや、言ってることの意味が全然わからない」

藤村　「俺の方がもっとわからないよ！　なんで殺されなきゃいけないんだ」

吉川　「だからこの指令に……」

藤村　「その指令は絶対なのか？」

吉川　「絶対というか……従わなきゃいけないものだろ」

藤村　「じゃさ、じゃさ」

吉川　「いいから！　おとなしく死ねよ！」

藤村　「やだよ！　だって俺スパイなんてしてないもん」

吉川　「でもここに名前が書いてある以上は……」

藤村　「ちょっと待ってよ！　その指令書見せてよ」

吉川　「ほら」

藤村　「スパイの名は……吉川」

吉川　「パン」

暗転