うどん

吉川 「いやだから、コシが違うんだって」


藤村 「そんなこと言ったって、俺のコシだって凄いよ」


吉川 「あーもう、全然ダメ。お前のコシなんて本当にお話にならない」


藤村 「お話になるよ!」


吉川 「まぁ、お前のもひょっとしたら凄いかもしれないけど、俺の方はもう全然違う」


藤村 「なにが全然違うの?」


吉川 「もう概念が違う。次元が違うんだよ」


藤村 「だって、うどんだろ?」


吉川 「うどんとか、もうそういう問題じゃないの。宇宙的な何かを感じる」


藤村 「いや、だからうどんでしょ?」


吉川 「うどんかもしれないけど、うどんの皮をかぶった何かだよ」


藤村 「何かって何だよ」


吉川 「何かは……夢? 的な? ロマン? みたいな?」


藤村 「全部漠然としてるじゃないか」


吉川 「だからもう、そういう言葉とかにしちゃダメなものなの。それがうどん」


藤村 「うどんじゃん」


吉川 「だーかーらー。お前の言ってるうどんと俺の言ってるうどんとは全然違うって言ってるだろ?」


藤村 「俺の言ってるうどんだって十分美味い」


吉川 「わかった。俺も大人だ。お前の言ってるうどんが美味いことは認めよう」


藤村 「わかりゃいいんだよ」


吉川 「でも、普通のうどんが、ツルツルシコシコだとすると」


藤村 「うん」


吉川 「お前の言ってるうどんは、ツルツルツルシコシコシコだ」


藤村 「増えただけじゃん」


吉川 「当社比で1.5倍の伸び率を記録している」


藤村 「全然漠然としてるけど」


吉川 「それがお前の言ってるうどんの限界なのさ」


藤村 「じゃ、お前のはどれだけツルシコなんだよ」


吉川 「俺の言ってるうどんは、言うなれば鶴見慎吾だ」


藤村 「え?」


吉川 「鶴見慎吾」


藤村 「いや、言ってる意味がわからない」


吉川 「俺もわからない。そのくらい超越した存在なの」


藤村 「それは、うどんじゃなくて、俳優だ」


吉川 「限りなく俳優に近いうどんなんだよ。演技力抜群」


藤村 「演技力は関係ないじゃん」


吉川 「だから、演技力抜群なくらいのコシ」


藤村 「歯ごたえがあるってこと?」


吉川 「歯ごたえとかそういう問題じゃない。乳歯だったら抜けるよ」


藤村 「えー、そんなに」


吉川 「一気に生え変わるよ。そのくらいのコシ」


藤村 「生え変わりはしないだろ。ちょっとしたイリュージョンじゃないか」


吉川 「だから、出汁と麺の織り成すイリュージョンがうどんだよ」


藤村 「そんなこと言ったら、俺のうどんだって……」


吉川 「だーかーらー。お前のうどんも凄いかもしれないけど」


藤村 「コシとかシコシコしてる」


吉川 「俺のコシの方が断然シコシコしてるよ!」


藤村 「俺のコシのシコシコ加減ときたら目を覆うほどだよ!」


吉川 「いーや、俺のコシは鶴見慎吾でシコシコしてるの!」


藤村 「ヤバッ、人が見てるぞ!?」


吉川 「それがどうした。俺のコシのシコシコを堪能しろよ」


藤村 「違うんです! うどんの話なんです」


吉川 「違くない。俺のシコシコ!」


藤村 「いや、だから違うんです! そうじゃないんです!」


吉川 「いいんだよ。人の目なんか気にせずお前もシコシコしろ! ほら、俺のコシが」


藤村 「違うんだよぉ!



暗転

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