永久機関

博士 「吉川くん! 世紀の珍発明じゃ!」


吉川 「今度は何ですか? 博士」


博士 「聞いて驚くなよ」


吉川 「いつものことですけど、驚くほど驚いたためしがないですよ」


博士 「そう言ってられるのも今のうちじゃ」


吉川 「なんなんですか」


博士 「永久機関じゃ」


吉川 「え……」


博士 「ほら! 驚いた」


吉川 「えぇ。驚きました。だって、永久機関ていったら」


博士 「人類の夢じゃな」


吉川 「そうですよ。無限のエネルギーを生み出すエントロピー増大の法則を無視した機関でしょ?」


博士 「うむ。その通り。エントロなんとかが凄いことになるんじゃ」


吉川 「エントロピーです」


博士 「わしはウブだから、そんな恥かしいこと言えない」


吉川 「いや、ピーって別に放送禁止用語とかじゃないですよ?」


博士 「まぁ、ともかく、エロいピーがなんかなるんじゃ」


吉川 「エロいピーって、それこそ恥かしいじゃないか」


博士 「しかし、これにより人類はエネルギー問題から開放される」


吉川 「本当なんですか? 永久機関なんて夢物語じゃないですか」


博士 「本当じゃよ。見てみろ! しかも世界最小最軽量じゃ」


吉川 「小さい! って永久機関自体が世界初だから、どんな大きさでも最小最軽量ですよ」


博士 「じゃ、世界最高最いい匂い」


吉川 「別に匂いしないけど。まぁ、言ったもん勝ちではあるからなぁ」


博士 「どうじゃ? すごいじゃろ?」


吉川 「これ、動いてないですよ?」


博士 「まだ動かしてない。動き始めたら止まらないからな」


吉川 「動かしてみてくださいよ」


博士 「う~ん……スイッチがね、凄い硬いのよ」


吉川 「これですか? ……硬ってぇ!」


博士 「人力じゃまず無理じゃ」


吉川 「僕の力でも無理ですよ。動かせなきゃ意味ないじゃないですか」


博士 「そこはぬかりない。スイッチ押しロボを緊急開発した」


吉川 「でかい! なんだこれ!」


博士 「世界最大最重量を目指した」


吉川 「もう、永久機関の小ささ台無しだな」


博士 「このロボのパワーにより、このスイッチは押される」


吉川 「じゃ、早く押してくださいよ」


博士 「え~と……このロボの燃料がね。ちょっと手に入らないの」


吉川 「ダメじゃないですか! 燃料って何なんですか?」


博士 「原子力」


吉川 「うわぁ。結局そういうのに頼るんだ」


博士 「違うよ! これさえ動けば本当に永久機関が動くんだって!」


吉川 「どうせ永久機関だって眉唾じゃないですか」


博士 「何を言う! 永久機関は本当なの! もう、吉川くんの分際でケチをつけすぎだよ!」


吉川 「だいたい博士の作るものはなんだって燃費が悪いじゃないですか」


博士 「あー! そういうこと言う? 普通言うかな、そういうこと。激しく傷ついた」


吉川 「ちょっとは反省してくださいよ」


博士 「もう傷ついてダメだ。やる気にならない。もーやーめた」


吉川 「すねちゃってもダメです」


博士 「なんだよ! 吉川くんなんてもう知らないよ?」


吉川 「それはこっちのセリフですよ! 僕がいないと何もできないくせに」


博士 「できるもん! 一人でできるもん!」


吉川 「博士は靴下だって裏っ返しに脱ぎっぱなすし」


博士 「あれはいいんだよ。次に履くときはリバースなの! 二回でワンセット」


吉川 「そういうのをグータラって言うんです。もう知りませんよ」


博士 「知らなくて結構!」


吉川 「あー! 言いましたね? 本当に知りませんよ? 掃除も洗濯も食事の用意もかゆいところかくのもホッペについたゴハン粒も全部知りませんからね!」


博士 「ゴハン粒なんてつけてないもん!」


吉川 「今だってついてる!!」


博士 「っ!? ……本当?」


吉川 「もう。世話が焼けるんだから……」


博士 「吉川くん……ゴメンね」


吉川 「……」


博士 「ゴメンって」


吉川 「……」


博士 「吉川くん?」


吉川 「……」


博士 「なんだ……電池切れか。まったく、わしがいないとなんにもできないんだからなぁ」



暗転

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