俺がお前でお前が俺で

吉川 「いったぁ~い!」


良子 「アイタタタタ」


吉川 「あれ? ……私?」


良子 「え? ……あっ! 俺!」


吉川 「どういうこと? なんで私が?」


良子 「え、え? ちょっと待って……えー!」


吉川 「なに? どうなってちゃってるの?」


良子 「落ち着け! どうやら……俺とお前の心が入れ替わったみたいだ」


吉川 「えー! ということは……吉川くんが良子で、良子が吉川くん?」


良子 「そう」


吉川 「おもしろーい!」


良子 「面白がってる場合か! 大変だぞ」


吉川 「そうだった! あ! さては吉川くん、エッチ大作戦を考えてるな!」


良子 「考えてないよ! それどころじゃなかったよ」


吉川 「ほんとぉ?」


良子 「う、うん」


吉川 「ちょっと考えたでしょ!」


良子 「ちょっとだけ……」


吉川 「エッチ! 吉川くんの亀仙人!」


良子 「別に亀仙人じゃないけど」


吉川 「吉川くんが変なことしようとしたらね、この格好のままセクハラで自首するからね」


良子 「すみません。それだけは勘弁してください」


吉川 「臭いメシ食ってやる!」


良子 「それは自分が辛いだけじゃ」


吉川 「間違っても変な考えは起こさないことね」


良子 「でも……どうしよう」


吉川 「よし! こうしよう!」


良子 「なにかアイデアでも?」


吉川 「歯医者の予約を今日に替えてもらう!」


良子 「え?」


吉川 「吉川くん、代わりに行って来てよ!」


良子 「やだよ! なんでそんなこと」


吉川 「グッドアイデアだよね。嫌だったんだぁ、歯医者」


良子 「ずるい! 自分ばっかりいい目に会おうと思って」


吉川 「さぁ、観念して虫歯を治療しなさい」


良子 「元はと言えば自分の虫歯だろ?」


吉川 「私のために尊い犠牲になって」


良子 「ならないよ! そんな理不尽な犠牲やだ」


吉川 「吉川くんの意気地なし!」


良子 「意気地の問題じゃないだろ」


吉川 「私は吉川くんのために色々楽しい思いをしようとしてるのに」


良子 「なんで自分は楽しいことばっかりなんだ」


吉川 「皮肉なものね」


良子 「なにかっこよく言っちゃってるの? それより、この状況をなんとかしないと」


吉川 「そうだね! できる限り楽しまなきゃ!」


良子 「そうじゃないだろ! 元に戻ろうよ」


吉川 「えー! もったいない」


良子 「もったいなくない。あっ! 良子、特技あっただろ? あの変なの」


吉川 「変なのとはなによ」


良子 「なんか前に言ってたじゃん?」


吉川 「あぁ。アレはダメ。まだ未完成なの」


良子 「未完成でもいいから!」


吉川 「えー。でも……恥かしいし」


良子 「恥かしがってる場合か!」


吉川 「じゃ、やるよぉ。……倍返すぞ!」


良子 「え? なにそれ?」


吉川 「なにって……あの、流行りのアレの真似だよ?」


良子 「そうじゃない! しかもあやふや!」


吉川 「一度も見たことないから。でも流行ってるんでしょ?」


良子 「もうちょっとくっきりしたところに挑戦しろよ。そもそもそんなの要求してない!」


吉川 「したじゃん!」


良子 「違うよ! そうじゃなくてさ」


吉川 「だから未完成だって言ったじゃん!」


良子 「完成度の問題じゃない。俺が言ってるのは真似じゃなくて」


吉川 「なに? 顔も似てるんだけど」


良子 「そうじゃなくて、幽体離脱できるっていってたじゃん」


吉川 「あぁ。それかぁ」


良子 「それのやり方教えてよ」


吉川 「やだよ! オバケ怖いじゃん」


良子 「怖いとかいってる場合か!」


吉川 「この辺、落ち武者のオバケとか出るらしいよ」


良子 「良子! 頼む。ちゃんと話を聞いてくれ。俺は元に戻りたい」


吉川 「まったくぅ。吉川くんはわがままっ子だなぁ」


良子 「……いたって普通だと思うんだけど」


吉川 「しょうがない。じゃ、いっちょやりますか」


良子 「やり方教えてよ」


吉川 「えっとね……身体の力を抜いて」


良子 「うん」


吉川 「目を軽く閉じて……」


良子 「うん」


吉川 「静かに息を吐きながら空に浮かび上がるイメージを持って」


良子 「うん……」


吉川 「ゆっくり目を開けると自分の姿が見えない?」


良子 「見える……」


吉川 「じゃぁ、そこに戻ろう」


良子 「わかった……」


吉川 「……っは!? 戻った!?」


良子 「う、う~ん」


吉川 「良子! 戻ったよ! 元の身体に戻ったよ!」


良子 「う~ん。おぬしは誰でござるか?」


吉川 「落ち武者だぁ!」



暗転

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