戦場シリーズ

藤村 「どうやら囲まれたようだな」


吉川 「絶体絶命というわけですか」


藤村 「すまん。俺の責任だ」


吉川 「そうですね」


藤村 「え、いや、う、うん。そうなんだけどさ」


吉川 「どうしましょう?」


藤村 「このまま待っていても消耗するだけだ、しかし……」


吉川 「敵の目をひきつけることができれば、もしかしたら」


藤村 「しかしそのためには」


吉川 「オトリ……ですか」


藤村 「いや、そんなことは」


吉川 「藤村隊長」


藤村 「なんだ?」


吉川 「自分は、戦争なんてものを許すことはできないと思ってました」


藤村 「あぁ」


吉川 「今もその気持ちに変わりはありません」


藤村 「どうした急に?」


吉川 「しかし、この戦争というものに一つだけいい思い出を見つけるなら、それは、藤村隊長に出会えたことです」


藤村 「吉川……」


吉川 「藤村隊長……いままでお世話になりました」


藤村 「いや、しかし部下を危険な目にあわせるわけにはいかない!」


吉川 「今はそんなことを言ってる時ですか!」


藤村 「確かにそうだが……」


吉川 「自分、覚悟はできてます」


藤村 「まったく、なんてバカな部下を持っちまったんだか」


吉川 「笑ってやってください」


藤村 「吉川……死ぬなよ」


吉川 「隊長のためにも、絶対に生きてみせます」


藤村 「うん? 俺の?」


吉川 「隊長! さぁ!」


藤村 「え?」


吉川 「さぁ! 早く!」


藤村 「え? なにが?」


吉川 「隊長がオトリになってる間に、私が逃げます!」


藤村 「え? 俺なの? 俺がオトリなの?」


吉川 「もう生きて会うことはないでしょうが……」


藤村 「死んじゃうの? 俺が死んじゃうの?」


吉川 「覚悟はできてます!」


藤村 「俺ができてないよ。えー! だって……なんか自分がかっこいいみたいな感じになってたじゃん」


吉川 「隊長のこと、忘れません!」


藤村 「いや、待ってよ。えー! そんなのずるい」


吉川 「俺のことはかまわずに!」


藤村 「いや、別にお前のことかまってるわけじゃなくてさ」


吉川 「グズグズしてたら二人ともやられちゃいますよ!」


藤村 「そうだけど! たしかに正論だけどさ!」


吉川 「もし神様が微笑んだら、また会えるかもしれません」


藤村 「なにカッコいいこといってんの? 微笑まなかったら死ぬってこと?」


吉川 「なにかあっても、決して振り向かないで走りつづけてください!」


藤村 「それ自分が見つかりたくないからだよね? 自分優先だよね?」


吉川 「早くいってください! こっちだって辛いんです」


藤村 「圧倒的にこっちの方が辛いだろ」


吉川 「もし、生きてまた会えることができたら……いや、今はそんなこと考えないでおこう」


藤村 「考えてよ! 生きてることを優先的に考えてよ!」


吉川 「早く行け! いかないと……撃つぞ」


藤村 「えー! そんな、えー? そういう感じになっちゃうわけ?」


吉川 「俺のことは忘れてください!」


藤村 「絶対忘れない! すっごいねちっこく覚えとくよ」


吉川 「隊長……さよなら」


藤村 「まったく、なんてバカな部下を持っちまったんだか……」



暗転

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