戦場シリーズ

吉川 「できません!」


藤村 「それでもやるんだ」


吉川 「だって……相手は人間なんですよ?」


藤村 「これは戦争だ」


吉川 「いくら戦争だって、人殺しなんて……」


藤村 「やらなければやられるんだぞ」


吉川 「それでもっ!」


藤村 「甘いな。お前ひとりが死ぬならそれでもいい。だが、お前のその理想論のせいで味方が何人も死ぬのだぞ」


吉川 「クッ……」


藤村 「戦場ではひとりの判断で大勢の人間が死ぬことになるのだ」


吉川 「死なせませんよ! 俺が! 死なせませんよ」


藤村 「昔、お前と同じことを言ったやつがいたよ」


吉川 「その人はっ?」


藤村 「……死んだよ」


吉川 「……」


藤村 「戦場は冷酷だ。そして死は平等だ。生き残るためには、どんなことをしてでも生き残るという努力をしなくてはならない」


吉川 「そんなの……間違ってますよ」


藤村 「それが戦争なんだよ」


吉川 「だったら、戦争なんて!」


藤村 「では、戦争のない世の中があったとしよう。それが本当に幸せな世界なのかな?」


吉川 「どういうことですか」


藤村 「世の中には仕事がない人間がいる。病に蝕まれる人間がいる。飢えに苦しむ人間がいる。それを解決するのは金だ」


吉川 「……」


藤村 「その金はどこからくる? 軍需だ。飢えはミサイル一発でまかなわれるのだよ」


吉川 「そんな……っ」


藤村 「戦争反対を叫ぶのもよい。だが、お前に何万もの人間を養うことができるのか?」


吉川 「そうだとしても、それでも俺は俺なりのやり方を見つけます」


藤村 「死ぬぞ」


吉川 「覚悟の上です」


藤村 「頑固だな」


吉川 「悪いですか!」


藤村 「昔のわしにも、それだけの頑固さがあればな……」


吉川 「……え?」


藤村 「とうに死んだものだと思ってたよ。信念なんてものは」


吉川 「藤村? ……まさか」


藤村 「ではやってみるか。お前なりのやり方でなにができるか」


吉川 「藤村!」


藤村 「まったく、やっかいな部下をもったもんだ」


吉川 「ありがとうございます!」


藤村 「だが、どうする?」


吉川 「相手も人間です。話し合えばわかるはずです!」


藤村 「そこが甘いと言うのだよ。そもそもお前は日本語しかしゃべれないだろう」


吉川 「イ、イエス」


藤村 「それだけか!」


吉川 「これだけであります!」


藤村 「仕方ない。わしが数十年の戦場生活で温めつづけた秘策をさずけよう」


吉川 「秘策?」


藤村 「そう。これさえできれば、相手を瞬時に戦闘不能にさせることができる」


吉川 「そ、それはっ!?」


藤村 「目で殺す」


吉川 「目で!? 目って……目?」


藤村 「そう! こう、流し目でキラッと!」


吉川 「こう……ですか?」


藤村 「あまーい! そんなもんじゃ虫も殺せないぞ」


吉川 「えっと……こう?」


藤村 「ちがーう! こう!」


吉川 「こうですか!」


藤村 「うわっ! あっぶねー。いま死にかけたよ」


吉川 「本当ですか!」


藤村 「マジマジ。やべー完璧だよ」


吉川 「よぉし! これで」


藤村 「うむ。わしが後ろから援護するから合図したら突撃だ!」


吉川 「了解しました!」


藤村 「いくぞ吉川!」


吉川 「まかせて下さいっ!」


藤村 「グワッ!」


吉川 「ゲフッ!」


藤村 「うぅ、……無念」


吉川 「いや合図、アイコンタクトなんだもん……」



暗転

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