戦場カメラマン

カメラマン 「正直、俺だってグラビアとか撮ってたいよ」


吉川    「そりゃそうだよな。グラビアじゃ死なないし」


カメラマン 「おっぱい見れるし」


吉川    「いいこと尽くめだね」


カメラマン 「なんで戦場なんて来なきゃいけないんだか」


吉川    「でもあれでしょ? 狙ってんでしょ? チューリップ賞」


カメラマン 「ピューリッツァね」


吉川    「そのチューなんとか」


カメラマン 「いや、チュはつかないから。しょっぱなから間違えてるもん」


吉川    「だって知らないもん。そんな賞」


カメラマン 「すごい賞なんだよ? 写真の世界では」


吉川    「へぇ。そのために戦場で死んでもいいくらい?」


カメラマン 「そういう言い方やめてよ。死ぬの前提じゃん」


吉川    「まぁ、うちらは前線じゃないからいいけどさ」


カメラマン 「死にたくねぇなぁ」


吉川    「よし、じゃ撮ろう」


カメラマン 「え? なにを?」


吉川    「俺、俺、モデルやるから」


カメラマン 「いや、そういうのと違うからさ」


吉川    「なにが違うの?」


カメラマン 「もっと、なんていうのかな、戦争の悲惨さとかそういうのがいいの」


吉川    「俺なんか超悲惨だよ。隊じゃ話し相手いないし」


カメラマン 「それはだいぶ悲惨だなぁ。だから俺相手にしてるのか」


吉川    「そうそう」


カメラマン 「そういうのじゃなくて、悲壮感っていうか、見たこと無い? 子供つれて逃げる母親とか」


吉川    「じゃ、俺も適当に連れてくるよ」


カメラマン 「誘拐じゃん! ダメだよ、適当じゃ」


吉川    「俺って結構フォトジェニックなんだぜ?」


カメラマン 「その自信はどこから来るんだ」


吉川    「ほら、ピース!」


カメラマン 「ダメだって! ピースじゃなんか楽しげじゃん」


吉川    「そっか、ダブルピース!」


カメラマン 「いや、戦場だよ? 全然ピースじゃない場所だよ? もっと考えてよ」


吉川    「スリーピース!」


カメラマン 「スリーピースはいくらなんでも……そもそも浸透してないよ」


吉川    「六ピース」


カメラマン 「どんどん増えてる。両手にしただけじゃん。なんかチーズっぽい名前だし」


吉川    「十ピース」


カメラマン 「ついにいきつくところまできたって感じだな」


吉川    「なんかギャルっぽくね? こう両手でさ」


カメラマン 「ギャルって言うか、いてつく波動とか使いそう。ゾーマっぽい」


吉川    「ゾーマは四本指だよ」


カメラマン 「知らないよ」


吉川    「撮ってよ」


カメラマン 「すげーフィルムの無駄なんだけど」


吉川    「これが戦場の真実だよ」


カメラマン 「じゃ、撮るよ」


吉川    「もっと言ってよ」


カメラマン 「え?」


吉川    「グラビアみたいに言ってよ。いいよー、綺麗だねーとか」


カメラマン 「綺麗じゃないもん」


吉川    「十分フォトジェニックだろ!」


カメラマン 「なんでキレてんだ。わかったよ。はい、いいよー、くびれてるよー」


吉川    「肩ずらしたほうがいい?」


カメラマン 「遠慮しておく。いいよー、撮るよー」


吉川    「うふっ」


カメラマン 「パシャ」


吉川    「あ、ばか! フラッシュはダメだって」


カメラマン 「え?」


吉川    「いくら前線じゃなくてもみつかっちゃうよ!」


カメラマン 「まじで?」


吉川    「一応戦場なんだからさ、緊張感持ってよ」


カメラマン 「ゴメン」


吉川    「まぁ、平気だと思うけど」


銃声    「パン」


吉川    「……あれ?」


カメラマン 「ん?」


吉川    「……なんか、熱い。あれ? あれれ? 血でてる」


カメラマン 「……撃たれたの?」


吉川    「あれ……やだよ……あれれ? やだよぉ……血が出てるよぉ」


カメラマン 「落ちついて! 止血!」


吉川    「やだよ……死にたくないよ。 俺死にたくないよ」


カメラマン 「落ち着け! 大丈夫」


吉川    「俺死ぬの? ね、ここで死ぬの?」


カメラマン 「うぅ……すまん……パシャ」


吉川    「十ピース!」


カメラマン 「そこは余裕あるんだ」



暗転

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