戦場

吉川 「なぁ、……俺ら死ぬのかな?」


藤村 「さぁ」


吉川 「一応戦争やってんだよね」


藤村 「やってるんだよねぇ」


吉川 「あ、なに食ってんの?」


藤村 「ビーフジャーキー」


吉川 「いいなぁ」


藤村 「食う? アメリカ産だけど」


吉川 「うわぁ、チャレンジャーだなぁ。やめとくよ。長生きしたいから」


藤村 「じゃ、戦争来るなよ」


吉川 「それはほら、仕事だから」


藤村 「仕事だもんなぁ」


吉川 「な、銃って撃ったことある?」


藤村 「ない」


吉川 「俺あるぜ」


藤村 「まじで? すげー」


吉川 「ハワイに行った時撃った。20ドル」


藤村 「へぇ」


吉川 「あとストリップが15ドルだった」


藤村 「行ったんだ?」


吉川 「行った。すごかったよ。なんか手すりみたいのにまとわりつくやつ」


藤村 「あー、あれか」


吉川 「そうそう、あれ」


藤村 「すげーな」


吉川 「あれ見たとき思ったね。……世界が平和でありますようにって」


藤村 「うわぁ、無理やりこじつけた」


吉川 「ばれた?」


藤村 「ばれるもなにも、急激に話の行方を見失ったよ」


吉川 「でもなぁ。最近じゃ地元のゲリラだって銃持ってんだよ?」


藤村 「俺だってビーフジャーキー持ってるよ」


吉川 「ビーフジャーキーと比べるなよ! どう戦うんだよ」


藤村 「ほら、なんかとんがってるじゃん。たまに口の中に刺さる」


吉川 「低いー。攻撃力低すぎだよ」


藤村 「そのうち脳がスポンジになって死ぬ」


吉川 「おまえの方が先にピンチじゃん」


藤村 「先手必勝だな」


吉川 「勝ってない」


藤村 「お前、なんか武器あるの?」


吉川 「あるよ」


藤村 「なに?」


吉川 「ジャパンマネー」


藤村 「うわぁ。いやらしい」


吉川 「これが一番効くんだよ。ヤクザ用語でも実弾って言うだろ」


藤村 「ヤクザ用語なんて知らないよ」


吉川 「このときのために、わざわざ両替せずに日本円持ってきた」


藤村 「やべぇ。俺全部両替しちゃったよ」


吉川 「いざと言う時は、この二千円札が役に立つ」


藤村 「立たなそー」


吉川 「この角のとがったところで」


藤村 「90度じゃん。ビーフジャーキーより攻撃力低いよ」


吉川 「買収だってできる」


藤村 「バカだなぁ。外人が日本円もらってどうするんだよ」


吉川 「それは……なんかすかしたり色々するんだよ」


藤村 「本当にもらって嬉しいものってのはな、日本のテクノロジーだ」


吉川 「お、なんかもっともらしいこと言ってる」


藤村 「だから、これだ! ジャーン」


吉川 「わぁ! それはゲームボーイ! しかも初期型のでかいやつ」


藤村 「甘いわ!」


吉川 「なに? その黒い色は……限定モデル?」


藤村 「PCエンジンGT!」


吉川 「うわぁ! 懐かしい! というか一周して……やっぱり懐かしい!」


藤村 「だろ? 二周くらいしても古さがぬぐいきれないぞ!」


吉川 「ちょっと羨ましい」


藤村 「こういう日本のテクノロジーで心をつかむ」


吉川 「テクノロジーに懐古主義をあてはめるのはどうだろう?」


藤村 「まぁ、なんにせよ、武器なんて使わないで済むのが一番だな」


吉川 「本当だよ」


銃声 「パン」


藤村 「……ッ!?」


吉川 「なんだ、いまの?」


藤村 「うぅ……胸が……」


吉川 「撃たれたの!? まじで?」


藤村 「ゴメン……撃たれたっぽい」


吉川 「おい! 藤村! しっかりしろ!」


藤村 「胸が……痛い」


吉川 「藤村ーっ!」


藤村 「ちょっとうるさい」


吉川 「え、ごめん」


藤村 「どんまい」


吉川 「いや、生きてるの?」


藤村 「あぁっ! 胸に入れたPCエンジンGTに弾が当たって!」


吉川 「まじでー?」


藤村 「助かった」


吉川 「さっきの胸が痛いってなんだったんだ」


藤村 「あれは恋かな」


吉川 「なんで突然恋なんだ」


藤村 「恋はいつでも突然。胸が張り裂ける思いだった」


吉川 「あそ」


藤村 「でも、撃たれたってことはここも危険だ。逃げよう」


吉川 「そうだな」


銃声 「パン」


吉川 「……ッ!?」


藤村 「え?」


吉川 「う……撃たれたっぽい」


藤村 「吉川ーっ!」


吉川 「あ! 胸に入れた二千円札に当たってる。おかげで大丈夫!」


藤村 「それは無理だよ」


吉川 「ダメかな?」


藤村 「うん、どんまい」



暗転

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