透明薬
博士 「吉川くん、空前絶後、世紀の珍発明じゃ」
吉川 「もう結構です。だいぶ満腹」
博士 「違うの! 今度は本物」
吉川 「本物ってなんだ! いままでのは全部嘘か」
博士 「透明人間」
吉川 「嘘つけ。もういい」
博士 「いいから見てよ! 見てからでいいから」
吉川 「なんですか」
博士 「ほら、これ! 見て見て。透明」
吉川 「……なにもないだけじゃ」
博士 「あるよ! 醸し出てるじゃん! 何かありそうな雰囲気が醸し出てるじゃん」
吉川 「雰囲気って言われてもなぁ」
博士 「ね? 見えないでしょ? 見えないの見たでしょ?」
吉川 「いや、無いから見えないんでしょうが」
博士 「違ーう! 心の眼で見るのじゃ!」
吉川 「凄腕の武術家か。また口車でなんとかしようとしてるな」
博士 「う、見破られた! さすが心の眼」
吉川 「別にそんなもん使ってない。ちょっと考えればわかる」
博士 「まぁ、今のはワシ一流のジョークだったわけだけども」
吉川 「一流って言い切ったな」
博士 「本当はすごい薬も作ったの。いままでのは前振りだよ」
吉川 「面倒くさい前振りするなぁ」
博士 「なんと、透明人間になれる薬」
吉川 「それはもう飽きた」
博士 「本当なの! じゃ、ちょっと実験材料になってよ」
吉川 「やだよ! なんで、そんなよくわからない薬を飲まなきゃいけないんだ」
博士 「飲むんじゃないの。注射するの」
吉川 「余計やだよ!」
博士 「痛いのは、最初チクっとするだけだから」
吉川 「痛さの問題じゃなくて怪しさの問題でいやなんだ」
博士 「そう言うと思ったよ。じゃ、仕方ない。ワシが消えるか」
吉川 「博士。やめといた方がいいですよ」
博士 「動物実験では成功だったんだ。見事クリオネが透明に!」
吉川 「初めっから透明っぽいやつで実験してるんじゃん」
博士 「吉川くん、ワシに何かあったら……その時は……後は頼んだ」
吉川 「博士ッ!」
博士 「プチュっ……チュ~~。あぁ……効っくぅ」
吉川 「博士ぇぇぇぇぇぇーーーっ!」
博士 「ん? なに?」
吉川 「普通っ!? なんだったんだ、今の空気感は! 全然なんともなってないじゃん!」
博士 「いや、見てみろ。ワシの手を」
吉川 「あれ? え? 袖から先が……え? まじ?」
博士 「うん。まじ」
吉川 「どうせ手品でしょ? ちょっと見せて」
博士 「触っていいよ」
吉川 「……なんかある。なんかあるし、暖かい。これは……っ!?」
博士 「お母さん指じゃ」
吉川 「うわぁ! 本当に消えてる。見えてない! 見えてないけどある!」
博士 「ね? ビビった?」
吉川 「ビビるよ。本当じゃん! すごい!」
博士 「心の眼で見ても見えないでしょ?」
吉川 「いや、元からそんな特殊能力ないから」
博士 「でもねぇ。これ一つだけ問題があって」
吉川 「時間が短いとか?」
博士 「いや、麻酔みたいなもんで、有効個所が狭いんだよ。腕に注射したら腕しか消えない」
吉川 「だったら、全身に注射しまくればいいじゃないですか」
博士 「そうすると、致死量で死ぬ」
吉川 「毒なんだ! 毒なことには変わりないんだ」
博士 「いや、ちょっとなら平気。残留もしないし、局地的に消すのは全然問題ない」
吉川 「じゃ、まるっきり消えるのは無理なんだ」
博士 「無理だねぇ……。多分死ぬから」
吉川 「微妙! すごいんだけど、惜しい!」
博士 「惜しいよね。頑張ったんだけど、コレが限界」
吉川 「これ、どうやって戻すんですか?」
博士 「戻す薬があるの」
吉川 「また、注射ですか」
博士 「いや、今度はガス」
吉川 「なんで、まるっきり別の形態になっちゃってんだ」
博士 「だって、注射二回もするの嫌だもん」
吉川 「そういう問題なんだ。じゃ、消えるのもガスにすればいいじゃん」
博士 「だから、致死量で死んじゃうんだって」
吉川 「ガスは平気なのか? そのガスは!?」
博士 「ガスは人畜無害。しかもちょっと隠微な気分になる香り」
吉川 「無害じゃないじゃん。ちょっ……ちょっとぉ! 尻を撫でるな!」
博士 「吉川くんは、怒りっぽいなぁ。何を突然怒ってるんだ」
吉川 「見えない手で尻を撫でられたら誰でも怒る!」
博士 「じゃ、ガスいきまーす」
吉川 「え? ここで!? 俺も食らっちゃうじゃん」
博士 「ぷっしゅぅ~!」
吉川 「うわっ! ……あ、ちょっといい匂い」
博士 「でしょ? そのうち身体が火照ってくるよ」
吉川 「こんなところで火照ってもしょうがない」
博士 「ほら、見て! もう手が元通りになっちゃった」
吉川 「へぇ。ホントだ。確かに、すごい発明ではありますね」
博士 「でしょ?」
吉川 「……で、博士。この、突然現れた人は誰ですか?」
博士 「知らないけど、……誰?」
暗転
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