読心

吉川 「本当に人の心が読めるんだ!?」


藤村 「……」


吉川 「どう?」


藤村 「……当たり」


吉川 「ね?」


藤村 「驚いたなぁ。もう疑いようがない」


吉川 「やっと認めてくれたね」


藤村 「でも、人の心が読めるってのは色々と大変じゃない?」


吉川 「それがそうでもないんだよ。意外と万能じゃない」


藤村 「そうなんだ?」


吉川 「考えを読むと言うよりね、心の中の声を聞く感じなんだよ」


藤村 「うん」


吉川 「つまり、頭の中で言葉になってないことはわからないの」


藤村 「言葉に? なんかよくわからないなぁ」


吉川 「人間の思考ってのは、言語だけじゃないでしょ? 映像だとか、感覚だとか、そういうものは感じられない」


藤村 「なるほど。じゃ、頭の中でエッチなこと考えても読まれないってわけか」


吉川 「それが映像とかならね」


藤村 「よぉし。考えてみよう」


吉川 「……いや、あの」


藤村 「むふふふ」


吉川 「小生、辛抱たまらんでござる」


藤村 「っ!? なぜそれを!? 見破られないはずなのに」


吉川 「言葉で考えちゃってる! しかもなんだよ。小生って」


藤村 「うわぁ! ついウッカリ。いつもの癖で」


吉川 「どんな癖だ。こっちだってそんな思考読みたくないよ」


藤村 「じゃぁさ、ジャンケンとかは?」


吉川 「言葉でグーとかパーとか考えないでイメージだけでやられたら勝てない」


藤村 「ジャンケン」


吉川 「ポン」


藤村 「負けたー!」


吉川 「お前は考えすぎ。チョキと見せかけて、パーだ! って考えてた」


藤村 「そのとおりだ! すげー!」


吉川 「もっとね、考える前に感覚でやっちゃえばいいんだよ」


藤村 「そんなの無理だよ。考えちゃうもん」


吉川 「まぁ、お前に関しては結構色々なことが読めちゃうな」


藤村 「それって、俺が賢いってことじゃない?」


吉川 「賢いかどうかは別にして、論理的な人間てことだ」


藤村 「なるほど、感覚的な人間の方が読まれないのか」


吉川 「そうそう。だから犬とか猿とかはダメね」


藤村 「考えてることわからないの?」


吉川 「わかるよ。クゥ~ンとかキーキーとか」


藤村 「それがわかってもなぁ……」


吉川 「まぁ、このくらいの能力の方がコントロールしやすくていいよ」


藤村 「いいなぁ。俺も欲しいなぁ」


吉川 「本当に欲しがってるな」


藤村 「うん。どうやったらできるようになったの?」


吉川 「当ててみな?」


藤村 「う~ん……あ! わかった!」


吉川 「ブー! 不正解」


藤村 「言わせろよぉ! 言う前に読むなよぉ」


吉川 「だって間違ってるんだもん」


藤村 「じゃぁね……」


吉川 「ブブー! 不正解」


藤村 「言わせてくれよぉ! なんか言わないとすごい馬鹿みたいじゃん」


吉川 「いや、奇抜なアイデアだと思うよ。でも不正解」


藤村 「わかった!」


吉川 「違うって! バカかお前は。そんなわけないだろ!」


藤村 「何もそんなに怒らなくても……まだ言ってすらいないのに」


吉川 「俺がそんなことする人間に思うか? だいたい、なんで洗面器なんだよ!?」


藤村 「手短にあったから……」


吉川 「たとえ手短に合ったって、洗面器なんか使うか! それに、野生のカバなんてどこからつれてくる気なんだ」


藤村 「いいアイデアだと思ったんだけど……」


吉川 「アイデアはともかく、実行にうつしてみろ! 犯罪じゃないか」


藤村 「ゴメンよぉ。もう言わないよ」


吉川 「まったく、呆れた奴だ。しかも本気だから恐ろしい」


藤村 「だってさ、羨ましいんだもん。そんな能力」


吉川 「俺も最初はそう思ったさ、でも知らない方がいいってこともたくさんある」


藤村 「例えば?」


吉川 「例えば、そうだな。好きな女の子がいたとする」


藤村 「あぁ。他の男の人のことを……」


吉川 「いや、心の中でジェームス・ブラウンのモノマネしてるんだよ」


藤村 「JB!? キング・オブ・ソウルを?」


吉川 「それはオーティス・レディングだな。JBはゴッドファーザー・オブ・ソウル」


藤村 「そうなんだ。ソウル詳しいね」


吉川 「しかも、自分自身の上手さにちょっと笑っちゃってる」


藤村 「あぁ、……うん。なんかさっきの厳しい指摘が気になってもうどうでもよくなっちゃった」


吉川 「あと、いつもオヤジギャグを披露して周りから寒がられてる上司が」


藤村 「心の中でみんなを罵倒してるとか?」


吉川 「いや、心の中ではすっげー面白いトークできてるの。俺たちのレベルに合わせて手加減されてたんだよ!」


藤村 「それはへこむなぁ~」


吉川 「あと……」


藤村 「もういい。わかった。弊害はわかった。でも、俺はやっぱり欲しいよ」


吉川 「はは、よっぽどみたいだな」


藤村 「だってさ、人の持ってない能力を手に入れるなんて、すごいことじゃないか?」


吉川 「そうだな。確かに、この能力により、人よりも優位にたつことができる状況と言うのは多い」


藤村 「そうだよ! 人間は、そんな超能力普通はもって……え?」


吉川 「ふふふ」


藤村 「いや、まさか……そんなね」


吉川 「それが正解だよ」


藤村 「な、なんてこった! 本当なのか? 本当にこんなことをして、お前はその能力を手に入れたと!?」


吉川 「そうだよ。軽蔑するならすればいいさ」


藤村 「嘘だ! 嘘だと言ってくれ! いくらすごい能力のためだとはいえ、お前はそんなことができる人間じゃないはずだ!」


吉川 「俺だって欲に転ぶ弱い人間さ。いや……人間だったさ」


藤村 「そんな! そんな思いまでして手に入れて、お前は満足なのか?」


吉川 「満足? そんな感情は関係ない。俺はただ、こういう能力を持ってる。それだけが事実だ」


藤村 「お前、よく平気な顔していられるな! 自分が何をしたかわかってるのかっ!?」


吉川 「わかっている。お前の怒りも。怒る理由もわかってるさ」


藤村 「くそぅ! 俺はお前を許さないぞ! そんなこと……いくらなんでも、そんなこと……」


吉川 「……藤村」


藤村 「もういい。話し掛けないでくれ」


吉川 「……藤村」


藤村 「……」


吉川 「お前……やろうとしてるだろ?」


藤村 「読まないでよぉ!」



暗転

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