羽根

藤村 「なにこれ? すっげぇ!」


吉川 「すげーだろ」


藤村 「本物なんだぁ」


吉川 「本物」


藤村 「いいなぁ」


吉川 「そう?」


藤村 「いいよ! 俺も欲しい」


吉川 「あればあるで意外と不便だぜ?」


藤村 「これ、寝るときどうするの?」


吉川 「うつぶせ」


藤村 「つぶれると痛いんだ?」


吉川 「痛いよ。だから、今お前が触ってるのもくすぐったくて気持ち悪い」


藤村 「ちゃんと血管通ってるもんなぁ……俺も欲しいよ。羽根」


吉川 「そんないいもんじゃないって」


藤村 「なんで急に生えたの?」


吉川 「なんでだろうなぁ……ひょっとしたら、俺って天使なのかも」


藤村 「えー! だって、この羽根……トンボみたいだよ?」


吉川 「透けてるでしょ」


藤村 「透けてるね。セロファンみたい」


吉川 「トンボっぽいんだよなぁ……なんでだろ」


藤村 「これ、飛べないの?」


吉川 「無理だよ。俺の体重何キロあると思ってるんだ」


藤村 「動く?」


吉川 「練習したらちょっと動くようになった」


藤村 「でも、飛べないんだ?」


吉川 「10cmくらいしか動かないもん。耳とか動かせる人いるじゃん? あれみたいな感じだよ」


藤村 「へぇ……やってみて」


吉川 「ほら……ほら……どう?」


藤村 「動いてる動いてる! 羽ばたいてるよ!」


吉川 「肩甲骨の辺りに意識集中させるんだよ」


藤村 「でも飛べないんじゃなぁ……」


吉川 「うん。飛べない」


藤村 「これさ、服、わざわざ後ろ切ったの?」


吉川 「うん。羽根生えてからTシャツしか着れなくなっちゃったよ」


藤村 「だよなぁ。しかも、このバックプリントのTシャツ。なんか目のところから羽根が出てて、ものすごく驚いた人の顔みたいになっちゃってるもん」


吉川 「イタタタタ、なにしてんの!」


藤村 「いやぁ。折りたためないのかなぁと思って」


吉川 「無理だよ! もう色々やったんだから」


藤村 「本当に使いみちないんだ?」


吉川 「ないこともないけど……」


藤村 「どんなの?」


吉川 「赤と青のマジックで色塗って、こう、目に当てると、飛び出すメガネになる」


藤村 「無理あるなー! 羽根でやらなくてもいい」


吉川 「いいんだよ! かっこいいんだから」


藤村 「まぁ、かっこいいな。ガンダムみたい」


吉川 「ガンダムは羽根ねーよ」


藤村 「モビルスーツには色々あるだろ」


吉川 「アイタタタタ」


藤村 「どうしたの? 俺触ってないよ?」


吉川 「つった! 肩甲骨つった!」


藤村 「わぁ! どうすりゃいい? 羽根揉めばいい?」


吉川 「揉むな! 付け根! 付け根押して。グーって」


藤村 「グー!」


吉川 「痛いたいたいたい! 羽根引っ張ってる」


藤村 「あ、ゴメン。無意識だった」


吉川 「あ~。引いてきた。やっぱ使い慣れてない筋肉使うとつるなぁ……」


藤村 「面倒だね」


吉川 「面倒だよ」


藤村 「なんで、こんな羽根なんだろう?」


吉川 「そうなんだよ。もっとフワフワした羽毛だったら天使っぽくて自慢できるのにさぁ」


藤村 「ガンダムっぽいもんなぁ」


吉川 「ガンダム羽根はえてねーって」


藤村 「なにかの呪いじゃないの?」


吉川 「あー、やっぱ、そっち関係か」


藤村 「小さい頃、トンボとかガンダムとか殺さなかった?」


吉川 「ガンダムはともかく、トンボくらいは殺したかもなぁ」


藤村 「それだよ!」


吉川 「今頃か?」


藤村 「ほら、言うじゃん? 桃栗三年羽根八年」


吉川 「言わない」


藤村 「言わないね」


吉川 「せめて飛べたら一儲けできそうなのに」


藤村 「飛べない羽根はただの羽根だもんなぁ」


吉川 「いや、飛べてもただの羽根だけど」


藤村 「ちょっと計算してみたんだけど、お前の体重と表面積から揚力係数を求めるとだな」


吉川 「さらっとものすごい計算するなぁ」


藤村 「一応飛べないことはないみたいだよ。ただお前の身体と羽根が、そのスピードに耐えられるかは別問題だけど」


吉川 「そんなギリギリな思いしてまで飛びたくない」


藤村 「じゃぁ、一生地べたはいつくばって生きるんだな」


吉川 「いやな言い方するなぁ。自分も飛べないくせに」


藤村 「羽根があるのに飛ばないなんて、人類に対する冒涜だよ」


吉川 「正直、人類である自信もちょっと崩れかけてるんだけど」


藤村 「ほら、勇気を出して、飛び出そうよ!」


吉川 「無理だって。勇気とかそういう問題じゃないだろ」


藤村 「ガンダムになりたくないのか!?」


吉川 「だから飛べてもガンダムじゃねーって!」


藤村 「大気の圧力でちょっと身体が熱くなるけど、それさえ我慢すれば飛べるんだよ」


吉川 「大気の圧力って、どれだけスピード出す気なんだ」


藤村 「心頭滅却すれば、大気圏突入も涼し」


吉川 「涼しくないよ! 精神論の前に、身体燃えちゃうじゃん!」


藤村 「燃え上が~れ、燃え上が~れ、燃え上が~れガンダム~♪」


吉川 「燃えるの前提じゃないの」



暗転

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