恋泥棒
藤村 「先生、頼むよ」
吉川 「だから、その先生ってのやめろよ。気持ち悪い」
藤村 「だって、お前は当代随一の恋泥棒じゃないか」
吉川 「まぁ確かに、当代随一の恋泥棒ではあるけれども」
藤村 「頼むよぉ。好きな子ができたんだよぉ」
吉川 「わかったよ。わかったから、顔近づけるな」
藤村 「ありがとぉ!」
吉川 「それで好きになった子ってのはナニ類ナニ科なの?」
藤村 「いや、ナニ科って……霊長類ヒト科だと思います」
吉川 「なんだよ! それだったら、まぁいけるな」
藤村 「えー。ていうか、えー!? ヒト科以外もOKなの?」
吉川 「そりゃ、当代随一の恋泥棒だからな」
藤村 「すげぇ。じゃ、ヒト科なんか余裕じゃん」
吉川 「いやぁ……ヒト科は、あんまり肉とかにつられないからな」
藤村 「肉で!? 恋関係ないじゃん」
吉川 「まぁ、なんとか俺も気に入ってもらえる肉を用意してみるけど」
藤村 「いや、そうじゃなくてさ。肉以外の、もっと心とか関わる方法でいきたい」
吉川 「なんだよ、難しい注文だな」
藤村 「難しいって……普通だと思うけど」
吉川 「で、オス? メス? ミドル?」
藤村 「普通に女性だよ。なんだよ、ミドルって」
吉川 「ミドルは中間」
藤村 「そういうのもあるんだ。時代に敏感な感じがするなぁ」
吉川 「体長は?」
藤村 「体長て……160cm前後かなぁ」
吉川 「尻尾も含めて?」
藤村 「いや、たぶん尻尾ないと思う」
吉川 「尻尾ないのかぁ……唯一の弱点が」
藤村 「サイヤ人じゃないから。普通の人間だから。女性の」
吉川 「人間で言うと何歳?」
藤村 「人間でしか言わない。普通人間は人間でしか言いません! 21歳ですけど!」
吉川 「好きな肉は?」
藤村 「肉限定かよ」
吉川 「じゃ、好きな茄子」
藤村 「意味がわからないよ。そんなのどうやって調べるんだよ。長茄子が好きだとなんなんだ」
吉川 「長茄子好きな人は、紫が好き」
藤村 「茄子は全部紫じゃん! 長とか関係ないじゃん」
吉川 「知らないなら知らないでいいんだよ。なんでそう背伸びをしたがるんだ」
藤村 「背伸びをした覚えはこれっぽっちもない」
吉川 「じゃ、好きな体重は?」
藤村 「なに!? もう全然意味がわからない。それ、どうやって聞けばいいの? 好きな体重なんて普通の人は無いだろ」
吉川 「俺は47kgだな」
藤村 「あるんだ! 好きな体重決まってるんだ! 何に活かすんだよ」
吉川 「わからないなら、わからないでいいよ」
藤村 「もっと普通のこと聞いてよ。結構情報ならあるから」
吉川 「お前、何座?」
藤村 「俺!? 俺の情報なの!? てんびん座ですけど」
吉川 「俺、かに座」
藤村 「……で?」
吉川 「で、彼女の家庭環境なんだけど」
藤村 「え? なに? 今の星座はなんだった? 言っただけ? 言っただけで完了!?」
吉川 「てんびん座、今日の占い8位だったよ」
藤村 「いや、それだけかよ。別にいいよ。知らされたところで、嬉しくも無い。順位も中途半端だし」
吉川 「彼女の利き手は? 右? 左? ミドル?」
藤村 「ミドルねーだろ! 意味わかんねーよ。なに手だ! なに手がミドルだ」
吉川 「なんもわかんねーんだな」
藤村 「だって、そんなの知らなくても普通なんとかなるじゃん」
吉川 「あ~あ~、これだからトーシローは困るよ」
藤村 「トーシロー」
吉川 「彼女の好きなアーティストは?」
藤村 「村上隆」
吉川 「……ですが、村上隆がキャラクターデザインを手がけたヒルズは何本木?」
藤村 「え? なに? クイズ? 突然クイズ形式? しかも、設問の日本語が微妙におかしい!」
吉川 「降参?」
藤村 「降参て……いや、六でしょ? それが彼女と何の関係が?」
吉川 「今日の占いの6位が彼女の星座です」
藤村 「なんだよ。その超能力系マジックみたいなオチは」
吉川 「さ、さそ……?」
藤村 「いや、うお座です」
吉川 「颯爽と現れたうお座!」
藤村 「無理やりじゃん。さそりって言いかけてたじゃん。もういいよ」
吉川 「わかった! ほぼ20%わかった」
藤村 「ほぼって異常に低いじゃん。わかってないじゃん」
吉川 「馬鹿、20%わかれば、あとは強引に腕力でなんとかなる」
藤村 「腕力じゃダメだよ! 根本的に何の解決にもなってない」
吉川 「その、キャサリンだけど……」
藤村 「待て待て。誰だそれは。俺の好きなのは日本人だ」
吉川 「なにリン?」
藤村 「なにリンでもなくて、なんで勝手に命名してるの? 度肝抜かれたよ」
吉川 「なんだっけ? 良子ちゃん?」
藤村 「え? なんでわかるの?」
吉川 「今までのデータでだいたいわかった」
藤村 「えー! うお座とかだけじゃん」
吉川 「長茄子好きが決め手」
藤村 「いや、それは知らないから。適当だから」
吉川 「まぁ、大丈夫。勇気をもって行動して砕けて散れ」
藤村 「なんだ、その花火みたいなアドバイスは。当たって砕けろじゃないのかよ。当たってすらいない」
吉川 「良子ちゃんのことは諦めたほうがいいよ」
藤村 「なんで!? まさか!?」
吉川 「フフフ……この俺が当代随一の恋泥棒と知ってか?」
藤村 「なんてこった……」
吉川 「お前のハートはいただいた!」
藤村 「俺のかよ。どうりでキュンキュン来てると思ったよ!」
暗転
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