夢神様
吉川 「あなたが……夢神様?」
夢神 「いかにも」
吉川 「な、なんか普通っすね」
夢神 「いつでも寝られる格好じゃ」
吉川 「スウェット、のびてユルユルだし」
夢神 「近所のコンビニまでならこれでOK」
吉川 「コンビニ行くんだ。神っぽくねぇなぁ」
夢神 「なら、試してみるか?」
吉川 「え? なにを?」
夢神 「つねってみい」
吉川 「いいんですか?」
夢神 「痛くないからな」
吉川 「じゃ、失礼します」
夢神 「……っ!? ほぉ、それでつねってるのか、全然感じんわい」
吉川 「本当ですか! すごい。じゃ、本気出しますね」
夢神 「え? 本気って……」
吉川 「ギッチィ~!」
夢神 「……っっっ!?!? 全然……痛くないもん」
吉川 「なんか、涙目になってますけど」
夢神 「眠いからあくびしたら涙出てきちゃった」
吉川 「ものすごく赤くなってますけど大丈夫ですか?」
夢神 「大丈夫だよ、馬鹿っ!」
吉川 「なんか、キレてる……」
夢神 「まぁ、このように、夢神だからつねっても痛くない」
吉川 「我慢強いだけなんじゃ……」
夢神 「あんまり侮辱すると悪夢を見せるぞ!」
吉川 「神様の割に陰険な」
夢神 「追いかけられる夢とか見せてやる!」
吉川 「それはいやだなぁ」
夢神 「F1に」
吉川 「はえ~。俺が早いよ。すごいよ」
夢神 「それがいやなら、ちゃんと敬いなさい」
吉川 「ちょっと見たい気もするけど……」
夢神 「んで、なにしに来たの?」
吉川 「はぁ……夢が持てなくて」
夢神 「あぁ。若者にありがちな。じゃ、適当なの与えて差し上げよう」
吉川 「適当でも困るんだけど」
夢神 「色々コースあるけど?」
吉川 「コース? なんか、うさんくさい……」
夢神 「ボロボロ泥沼コース、ショボショボ現実コース、ドキドキロマンチックコース、箱根湯本一泊コースがあります」
吉川 「いや、明らかにおかしいのも含まれてる気がする」
夢神 「どれもオススメでっせ」
吉川 「あの……泥沼コースってのは?」
夢神 「これは、夢を見つづけて、夢だけじゃ食えない現実に打ちひしがれて非業の死を遂げたりするファンタスティックなコースです」
吉川 「全然ファンタスティックじゃない!」
夢神 「オプションで夢のような才能を手に入れた気になれる魔法の粉がついてきます」
吉川 「明らかに違法っぽいやつじゃないか」
夢神 「夢を追いかけてボロボロになる醍醐味。まさに夢追い人!」
吉川 「やめときます。現実コースは?」
夢神 「そこそこのに仕事して、そこそこの生活をして、中の中の人生を静かに終える、ドラマチックなコースです」
吉川 「ドラマねぇな~」
夢神 「宝くじ当たるといいなぁ……って夢を見つづける」
吉川 「ふ、普通……」
夢神 「当たったら奮発して本物のビールを買うぞ!」
吉川 「なんか切なくなってきた。そんなのやだ。ロマンチックは?」
夢神 「白馬の王子様に強制的に拉致されるという、コスメティックなコース」
吉川 「コスメティックじゃないし、なんか言い回しが……」
夢神 「オプションで白馬と王子がついてくる」
吉川 「いきなりついてくるんだ」
夢神 「すぐ行くよ」
吉川 「でも、王子様に来られてもなぁ……」
夢神 「なんなら女装くらいは、やぶさかでもない」
吉川 「いや、そういう問題じゃなくて。……え? 王子?」
夢神 「うん、王子」
吉川 「おっさんが?」
夢神 「おっさん言うな! 夢神様だ」
吉川 「いらねーよ! くるなよ。わざわざ馬なんか乗って」
夢神 「ひどい!」
吉川 「だいたい夢神様ってのも嘘っぽい」
夢神 「嘘じゃねーって」
吉川 「ぎっちぃ~!」
夢神 「痛いたいたいたいたい!」
吉川 「痛いんじゃん」
夢神 「痛いよ、馬鹿! ツメまでたてやがって!」
吉川 「ろくなコースがないし。もういい!」
夢神 「いや。あるじゃん」
吉川 「どれも、最低の夢じゃないか」
夢神 「残ってるでしょ!」
吉川 「え……あの……」
夢神 「箱根湯本一泊コース」
吉川 「それ、本気だったんだ」
夢神 「いいぜー。温泉つかり放題でリラックス!」
吉川 「いや、普通じゃん! 普通の温泉旅行じゃん」
夢神 「いいところだぜー。まるで夢のよう」
暗転
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