パドリング

吉川 「人いない?」


藤村 「いないねぇ」


吉川 「やっぱり無人島かぁ」


藤村 「みたいだね」


吉川 「やりすぎだったかなぁ」


藤村 「そうだね」


吉川 「パドリング」


藤村 「思いっきり漕いでたもんね」


吉川 「まさか黒潮に乗るとは思わなかったよ」


藤村 「暖かくなってきた時にはやばいと思ったけどね」


吉川 「どうしよっか?」


藤村 「どうしようって……待つしかないだろ? 無人島だもん」


吉川 「そうだよなぁ」


藤村 「来ないなぁ」


吉川 「来ないね……。ビッグウェーブ」


藤村 「え? ビッグウェーブ待ってるの?」


吉川 「当たり前だろ! サーフィンしにきたんだから」


藤村 「いや、もうそれどころじゃないじゃん」


吉川 「そうか……。ビッグじゃなくてもいいか」


藤村 「そうじゃなくてさ。波とか待ってどうするんだよ」


吉川 「乗るんだよ」


藤村 「なんでサーフィン優先なの? 遭難してるんだよ?」


吉川 「まじで!?」


藤村 「いやいや、そこは気づいてようよ」


吉川 「やばいじゃん!」


藤村 「やばいよ。初めからずっとやばいよ!」


吉川 「どうするんだよ!」


藤村 「え? 俺の責任? なんで責められてるの?」


吉川 「今までのお遊び気分が台無しじゃないか!」


藤村 「いや、お遊び気分でいる方が悪いんじゃ」


吉川 「最悪だよー。早く帰ろうぜ?」


藤村 「だから、帰れないんだって!」


吉川 「なんで? 遊び足りない?」


藤村 「違う! なんで遊び優先なんだ」


吉川 「さてはお前……一夏の恋とかしたな?」


藤村 「してない! 俺とお前の二人しかいないじゃないか!」


吉川 「……ゴメン。お前の気持ちにはこたえられない」


藤村 「違うッ! なんでお前に一夏の恋をしなきゃいけないんだ」


吉川 「俺さ……サーフィンに恋してるから」


藤村 「なに恥かしいこと言っちゃってるんだ。誰もお前になんて恋してない!」


吉川 「じゃ、なんで帰れないんだよ」


藤村 「潮流が逆向きだろ?」


吉川 「じゃ、俺たち死んじゃうんだ」


藤村 「ようやく事の重大さに気づいたか」


吉川 「死ぬんだ……どうせ死ぬんだ」


藤村 「いや、だから待とうよ! ね?」


吉川 「う、うん。早く来ないかなぁ」


藤村 「波じゃないぞ?」


吉川 「わかってるよ! 馬鹿にしないでくれ」


藤村 「ごめん」


吉川 「あ! 靴下ぶら下げとかなきゃ」


藤村 「待て待て待て。何を待ってるんだ」


吉川 「サンタさん」


藤村 「メルヘンか! 急にロマンチストか!」


吉川 「知ってるよ……お父さんなんだろ! 去年から気づいてたよ」


藤村 「去年気づいたんだ。ずいぶん大人なのに」


吉川 「でも、気づかない振りしてやるんだ。それが俺の愛情」


藤村 「というか、サンタさんは来ない! 無人島にプレゼントは持ってこない!」


吉川 「えー! しょんぼり」


藤村 「サンタじゃなくて助けを待てよ!」


吉川 「別に待つんだったら何待っても一緒じゃん」


藤村 「そうだけどさ……隣でサンタ待たれると緊張感がなくなる」


吉川 「そんなの被害妄想じゃんか」


藤村 「なんで、俺が責められてるんだ」


吉川 「どうせ死ぬんだしさ」


藤村 「浮き沈み激しいなぁ」


吉川 「サーファーだしな」


藤村 「波がありすぎ」



暗転

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