検定

藤村 「遅れてすみません!」


吉川 「あ、まだ始まってませんよ」


藤村 「いやぁ~よかった。来る前にラーマ奥様インタビューに捕まっちゃって」


吉川 「あなたも……検定ですか?」


藤村 「はい。あなたも?」


吉川 「えぇ。会社の方でね、取っておけっていうもんで」


藤村 「どこも一緒ですね」


吉川 「いやぁ……しかし、緊張しますね」


藤村 「私もですよ。勉強とかしました?」


吉川 「正直、何を勉強していいのか分からなくて」


藤村 「あぁ。私もです」


吉川 「本当ですかぁ? そんなこといってバッチリなんじゃないですか?」


藤村 「そちらこそ」


吉川 「ははは、お互い勘繰り合うのはやめましょう」


藤村 「そうですね。いくら検定前だとは言え」


吉川 「しかし、本当に必要なんでしょうかね? こんな資格」


藤村 「さぁ。嘘つき検定だなんてねぇ」


吉川 「私は、正直者とまでは言いませんがね、嘘が上手いタイプでもないもんで」


藤村 「私もです。でも、仕事を続けて行く上で、ある程度の嘘はつけないといけないと上司に言われて……」


吉川 「似たような境遇ですね」


藤村 「本当ですね。……本当、ですか?」


吉川 「本当ですよ。いやだなぁ、いくら嘘つき検定だからって」


藤村 「それにしても、もう始まってもいい時間だと思うんですけどね」


吉川 「あそこの時計だと……あ! あの時計ずれてますよ!」


藤村 「本当だ! こんなところから、もう嘘つき検定は始まってるのか」


吉川 「危ない危ない。何も信じられませんね」


藤村 「試験官だって、どんな人が……」


吉川 「……? どうしました?」


藤村 「まさか、あなたが試験官だってことは……」


吉川 「フフフ、第一段階合格です」


藤村 「やっぱり!」


吉川 「嘘を見破る技術も嘘検には必要ですから」


藤村 「なるほど。油断できない」


吉川 「では、本試験に入りますので、検定料二万円をお支払下さい」


藤村 「え? あの、前もって支払っておいたはずじゃ」


吉川 「あれ? 書類に書いてませんでした? 受験料と別途で検定料がかかるんですよ」


藤村 「そうだったんですか……。いや、しかし今は持ち合わせがなくて」


吉川 「ローンも可能です。金利手数料は嘘検で負担しますから」


藤村 「まさか、それも嘘なんじゃ……」


吉川 「ははは、よく見破りましたね。金利手数料は負担しません」


藤村 「いや、そこが嘘なの? 検定料自体嘘なんじゃないの?」


吉川 「あなた、検定を受ける気はないんですか?」


藤村 「あ、すみません……」


吉川 「なんちゃって」


藤村 「え……」


吉川 「嘘です」


藤村 「やっぱりー! そうだと思ったよ」


吉川 「お見事です。合格です」


藤村 「本当ですか? やったー!」


吉川 「ははは、おめでとうございます。証明書などは後日郵送にてお届けします」


藤村 「ありがとうございます」


吉川 「……なんちゃって」


藤村 「え? なんですか?」


吉川 「しかし、来ませんね。試験官」


藤村 「えっ!? 自分試験官て言ったじゃん」


吉川 「今まで全部真っ赤な嘘です」


藤村 「なんてこった。真っ赤な嘘だったのか」


吉川 「いいウォーミングアップになったでしょ?」


藤村 「ヒヤヒヤしましたよ」


吉川 「ははは、すみません」


藤村 「よろしい。合格です」


吉川 「……え?」


藤村 「おめでとうございます」


吉川 「まさか、あなたが!?」


藤村 「はい。見事な嘘でしたね」


吉川 「なんてこった。これは、お恥ずかしい」


藤村 「なかなかのものでしたよ。では、引き続き手続きがありますので……」


吉川 「はい」


藤村 「なんちゃって!」


吉川 「うわぁ! やられたー!」


藤村 「実は……ラーマ奥様インタビューに捕まったというのは嘘です!」


吉川 「そこか! いや、そこは正直な話、気が付いてたけど、可哀想だったからあえて触れないようにしてたのに」


藤村 「ガーン! バレバレだったのか」


吉川 「そうじゃなくて、あなたが試験官てのも嘘でしょ?」


藤村 「失敬な! 不合格にしますよ」


吉川 「あ……。すみません」


藤村 「なんちゃって」


吉川 「ぴぎゃー! ひっかかったぁ!」


藤村 「へへへ。お返しです」


吉川 「やっぱり怪しいと思ったよ」


藤村 「無理がありましたかね?」


吉川 「そのくらいの嘘は分かりますよ。私は人の心が読めますから」


藤村 「え……」


吉川 「なんちゃって!」


藤村 「うわぁ! ところで私、イギリス人なんです」


吉川 「まじですか!?」


藤村 「なんちゃって!」


吉川 「どっひゃー! ひっかかったぁ」


藤村 「ダメだダメだ。この程度の嘘じゃ合格なんか出来ない!」


吉川 「そうですよね」


藤村 「ラーマ奥様インタビューとか、そんなレベルじゃ一発で不合格ですよ」


吉川 「お、俺! UFOみたことあんぜ!」


藤村 「嘘だ! 俺なんか、スーパーゼウスもってるぜ!」


吉川 「嘘だ! 俺なんか、一機も死なずにマリオ2クリアできるぜ!」


藤村 「ガチャピンの中身は俺だ!」


吉川 「俺がこの世界の創造主だ!」


藤村 「……」


吉川 「違う。もう嘘吐きとか言う次元じゃなくなってきてる」


藤村 「なんか一線を超えてしまった気がする」


吉川 「はっ!? まさか!」


藤村 「いや、私は試験官じゃない」


吉川 「そうじゃなくて、嘘検じたいが嘘なんじゃ……」


藤村 「ありえる!」


吉川 「畜生! だまされた!」


藤村 「帰ってもっとすごい嘘を考えなきゃ!」


吉川 「やっぱり勉強してたな! 負けてられるかッ!」



暗転



明転



試験官 「遅れてすみません! ウィッキーさんにつかまっちゃって! ……って、誰もいない!」



暗転

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