匂う

藤村 「……匂うな?」


吉川 「すわっ!? 事件か?」


藤村 「いや、そうじゃなくて、臭い」


吉川 「やはり、あいつがクサいと思ってたんだ」


藤村 「そうじゃない」


吉川 「このヤマは俺が解いてみせる! じっちゃんになりかけて!」


藤村 「別にお爺ちゃんになりかけなくていいから。違う。本当に臭いんだ」


吉川 「リュ、リュウマチが……」


藤村 「なりかけちゃった! そうじゃなくて! なんか屁の匂いがする」


吉川 「なんてこった! 根は相当深いぜ」


藤村 「深くない。この部屋には俺とお前しか居ない」


吉川 「密室か! 謎は深まるばかり」


藤村 「犯人はお前だ」


吉川 「違う! 仕組まれたんだ! これは罠だ」


藤村 「誰が屁を仕組むんだ。そんなミクロな罠などない」


吉川 「くそ……まさか、こうもあっさりバレるとはな」


藤村 「バレるよ! 二人しかいないんだから」


吉川 「許せなかったんだ! 俺は……あいつを……」


藤村 「別に動機とかいらない。屁だもん」


吉川 「お前にはわからないだろうさ。極限まで追い詰められた人間の心理なんてな」


藤村 「そんなに我慢してたんだ」


吉川 「この時を身を焦がす思いで待ちわびた」


藤村 「身を!? なんか汚い! もういいよ」


吉川 「汚いか……お前の目にはそう映っても仕方ないな」


藤村 「そうじゃないくてさ、もういいよ。たかが屁じゃないか」


吉川 「たかがだと!?」


藤村 「あ……ごめん」


吉川 「あれは屁なんかじゃない。心の……ガスさ」


藤村 「いや、ガスの時点で全然詩的表現じゃないよ」


吉川 「尻のため息」


藤村 「尻ってダメだろ。すでに」


吉川 「お前には悪いと思ってるよ……」


藤村 「いや、べつにいいよ。屁くらいで」


吉川 「俺は取り返しのつかないことをやっちまった」


藤村 「つくよ! 全然つくよ!」


吉川 「そうか?」


藤村 「あぁ……水に流そうぜ」


吉川 「わかった。流してくる」


藤村 「え? えぇーっ!?」



暗転

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