消防

吉川  「人間やっぱり、火を見ると落ち着きますねぇ」


消防士 「ちょっとあなた、危ないから下がって」


吉川  「焼けてますねぇ」


消防士 「焼けてますよ。火事だもん」


吉川  「せっかくだからイモとか持って来ましょうか」


消防士 「いや、せっかくじゃないですよ! 一大事です」


吉川  「あ、肉派?」


消防士 「違くて。派閥の問題じゃなくて」


吉川  「だって、せっかくの火事なのにもったいないじゃん?」


消防士 「もったいなくないよ! 早く消さないと」


吉川  「なんで?」


消防士 「なんでって……」


吉川  「いいじゃん。暖かいし」


消防士 「被害者はよくないでしょ!」


吉川  「保険おりるでしょ」


消防士 「そ、そうかもしれないけど! 思い出とか燃えちゃうじゃん」


吉川  「思い出ってのは、心の中にしっかりと残っていればいいんですよ」


消防士 「んもうっ! ダメなもんはダメなの!」


吉川  「えー」


消防士 「あ、ほら。地球温暖化に一役買っちゃう!」


吉川  「無理やりなところから持ってきたなぁ……」


消防士 「だいたい、この家の持ち主の気持ちになってみなさいよ!」


吉川  「株価」


消防士 「……え?」


吉川  「株価が気になるなぁ……って思ってる」


消防士 「思ってないよ! 火事なのに!」


吉川  「いや、思ってる。これ、うちだもん」


消防士 「えー! ……ご本人?」


吉川  「うん。株価」


消防士 「いや、あの……もうちょっと緊迫した方がいいんじゃ」


吉川  「そう?」


消防士 「だって火事ですよ? ひょっとしてパニクってる?」


吉川  「なにも食ってないですよ」


消防士 「あの、わかりました。とりあえず我々は消火活動に全力を尽くしますから」


吉川  「じゃぁ、俺はバケツリレーをしよう」


消防士 「はい!」


吉川  「ちょっとバケツとってきます」


消防士 「え……ちょっ! 危ないですよ」


吉川  「だって、家の中にバケツが……」


消防士 「ダメですって! あきらめてください」


吉川  「イヤーーッ! うちのバケツが! バケツが!」


消防士 「なんで突然バケツで取り乱しちゃってるの?」


吉川  「お願いします! バケツを助けて!」


消防士 「え、それはちょっと……お断りします」


吉川  「うぅ、バケツが……焼きバケツになってしまう……」


消防士 「とにかく落ち着いて。火の方はなんとかしますから」


吉川  「いかないで! 一人にしないで!」


消防士 「いや、そんなこと言われても……。ちょっと気持ち悪いし」


吉川  「私を愛してるなら、この炎を乗り越えてきて!」


消防士 「なにいってんの? 愛してないけど仕事だから消火しますよ」


吉川  「あなたはいつもそう。仕事仕事って。仕事と火事とどっちが大切なの!」


消防士 「仕事が火事なんですよ!」


吉川  「放火魔!?」


消防士 「違うっ!」


吉川  「ニューカマー!?」


消防士 「もっと違う! 見ての通りの消防士だ」


吉川  「え、銀だから円谷関係のマンかと思ってた」


消防士 「銀だからって……とにかく、消火活動しますから離れててください」


吉川  「私だって自分なりに消火活動してるんです!」


消防士 「さっきから邪魔しかしてないじゃないですか!」


吉川  「水を差してるでしょ」



暗転

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