面接
面接官 「それでは月曜日からいらしてください」
吉川 「え、あの……」
面接官 「都合悪いですか?」
吉川 「そうじゃなくて、なんと言うか……意外とあっさりしてたもんで」
面接官 「まぁ、初めは誰でも戸惑いますよね」
吉川 「そんな簡単に決まっちゃっていいんですか?」
面接官 「やっぱり、やめます?」
吉川 「いや、辞めませんけど……だって、正義の味方でしょ?」
面接官 「そうですよ」
吉川 「ヒーローでしょ?」
面接官 「最近ね。なり手がないんですよ。不況で……」
吉川 「不況とか関係あるんですか?」
面接官 「ほら、出来高制だからさ。結局救わない分には儲からないわけですよ」
吉川 「はぁ……」
面接官 「一救い、400円ですからねぇ……」
吉川 「まぁ、えらい安いですね」
面接官 「でもほら、お金じゃないですよね」
吉川 「そうですよ。ヒーローなんですから」
面接官 「あ、そういえば、コンセプトはどうします?」
吉川 「コンセプトって……?」
面接官 「何マンにします?」
吉川 「えっと……何にも考えてなかったんですが……」
面接官 「週末は役所が休みなんで、その前に申請しておきたいんですけどね」
吉川 「役所に申請するのっ!?」
面接官 「当たり前じゃないですか。そうしないとただの暴れん坊ですよ」
吉川 「あぁ、そうなんですか」
面接官 「とりあえず、吉川マンでいいですか?」
吉川 「いや、それはさすがに。正体バレバレだし……」
面接官 「やっぱまずいですか? バレると」
吉川 「ちょっと恥かしいと言うか……。さすがに」
面接官 「じゃぁ、山田マンで」
吉川 「誰ですか、山田って。無関係の人じゃないですか」
面接官 「まさか山田の正体が吉川だなんて誰も思いませんよ」
吉川 「思わないでしょうけど……なんか、ヒーローっぽさが……」
面接官 「じゃぁこういうのはどうです?」
吉川 「どういうの?」
面接官 「日本からやってきた世紀のヒーロー。野武士マン!」
吉川 「日本からって、基本的に日本以外で活躍する予定はないんですが……」
面接官 「そうなの? もっとグローバルにいこうよ」
吉川 「いや、例えグローバルだとしても野武士は嫌だ。どちらかというと悪役っぽい」
面接官 「なにか特技とかないの?」
吉川 「とくに……」
面接官 「無個性超人、とくにマン!」
吉川 「いや、意味がわからない。ものすごい一生懸命説明しないと伝わらなそう」
面接官 「好きな食べ物は?」
吉川 「えっと……アンパ……」
面接官 「小麦粉王子。パンマン!」
吉川 「パンだけなんだ」
面接官 「中身とか言い始めると非常に面倒くさいことになる」
吉川 「まぁ、版権とか大変そうだしなぁ……」
面接官 「あれだ! 色でいこうよ!」
吉川 「いいですね。僕、赤が好きなんで……」
面接官 「カラフル戦隊。レッドマングリーン!」
吉川 「え……」
面接官 「レッドマンのグリーン担当」
吉川 「なんで、グリーンなの? レッドでいいじゃん」
面接官 「顔が……グリーンぽい」
吉川 「うわぁ。なんだか微妙な屈辱感」
面接官 「初めはグリーンからで、徐々に出世していくんだよ」
吉川 「出世なんだ」
面接官 「昇段試験を受けて受かるごとに色が変わる」
吉川 「戦隊なのに結局一人なんだ。一人でグリーンなんだ」
面接官 「見た目はグリーンだけど帯の色だけ変わっていく」
吉川 「ワンポイントじゃん。結局最後までグリーンか」
面接官 「縁起のいい名前ってのはどうでしょう?」
吉川 「たとえば?」
面接官 「長寿爺さん。じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょ……」
吉川 「ちょっ! 長い! 長くて覚えられないし、登場する時大変!」
面接官 「ものすごい縁起いいですよ」
吉川 「縁起はともかく、長寿爺さんて、すでにヒーローじゃなくて爺さんになってる」
面接官 「なんか適当にキャッチーな特徴をでっちあげましょうよ」
吉川 「そんなこといわれても……」
面接官 「天才肌職人。左利きマン!」
吉川 「あの、せっかくなんですが、右利きなので……」
面接官 「もうこの際、実際はどうかなんてどうでもいいですよ」
吉川 「いいの?」
面接官 「言ったもん勝ちですよ。億万長者マンとか」
吉川 「それはよさそうだけど……なんか金で解決しそうでいやらしいなぁ」
面接官 「あ、毛深いマンてのは? ほら、ちょっと毛深いじゃないですか」
吉川 「いや、それ気にしてるんで……あんまり言われるとへこみますし」
面接官 「みんな声をそろえて言いますよ!」
吉川 「まっぴらごめんです」
面接官 「さっきから文句ばっかり」
吉川 「いや、そんなつもりじゃ……」
面接官 「誰のために考えてあげてると思ってるんですか」
吉川 「スマン」
面接官 「じゃ、それで」
暗転
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