プレゼント

良子 「だ~れだ!」


吉川 「良子だろ?」


良子 「正解! ジャンピングチャーンス!」


吉川 「正解はいいんだけど……なんか目の周りがねちゃつく」


良子 「いっけなーい! 良子ったら手鼻したばっかりだった」


吉川 「ばかっ! おまえふざけんなよ。なんで鼻水まみれの手でだ~れだってするんだよ!」


良子 「それは……ジャンピングチャンスだったから……」


吉川 「意味がわからない。こんな屈辱的なチャンスははじめてだ」


良子 「えへへ。怒らないで! 今日はプレゼントを持ってきました」


吉川 「え、なんで?」


良子 「はい。お誕生日おめでとー」


吉川 「い、いや……俺の誕生日、七月なんだけど」


良子 「知ってるよ!」


吉川 「知ってるの? じゃ、なんで?」


良子 「今日はマリオの誕生日なのです」


吉川 「マリオって、スーパーマリオの?」


良子 「いいえ。イタリアに住んでる無職の」


吉川 「知らない人だよ! そのマリオの誕生日を祝ってる人おまえしかいねーよ」


良子 「毎年、マリオの誕生日には世間からつまはじきにされてる人にプレゼントをするって言う風習があるんだよ」


吉川 「俺は世間からつまはじきにされてたのか……」


良子 「嘘だけどね」


吉川 「嘘かよ」


良子 「あ、つまはじきの部分は本当」


吉川 「そこだけ本当でも余計に救われない」


良子 「このプレゼントは私の気持ち」


吉川 「はぁ……ありがとう」


良子 「あけてみて!」


吉川 「なんと言うか……パンドラの箱を開ける時ってこう言う気持ちなのか」


良子 「別に爆弾とかじゃないよ。爆弾だったら私は逃げてるもん」


吉川 「そ、そうだね」


良子 「はやくぅ!」


吉川 「わぁっ! ……これは……いいね」


良子 「うん! いいでしょ?」


吉川 「う、うん……いい……やつだね」


良子 「頑張ったんだから」


吉川 「えっと……糸くず?」


良子 「違うよ! バカだなー吉川くんは。マフラーじゃない」


吉川 「あ! マフラー! いやぁ……なんというか斬新」


良子 「えへへ」


吉川 「こいつはあったかそうだ」


良子 「愛情たっぷりだからね」


吉川 「へ、へぇ……」


良子 「頑張ってイニシャルも入れちゃった♪」


吉川 「本当だ……でもこれ……なに?」


良子 「イニシャル」


吉川 「だって……MJって……」


良子 「マイケル・ジャクソンのイニシャルだよ」


吉川 「なんで、俺のマフラーにマイケル・ジャクソンのイニシャルが……」


良子 「不服?」


吉川 「いや、不服って言うか……必然性が見出せない」


良子 「わかったわよ! マイケル・ジョーダンに変更すればいいんでしょっ!」


吉川 「変更すればって……何一つ手を加えてないじゃないか。心の持ちようじゃないか」


良子 「文句言うなら、丸見え爺さんに変更よ」


吉川 「誰だ、丸見え爺さんて」


良子 「色々見えちゃってる爺さんだよ。内臓とか」


吉川 「内臓見えちゃダメだろ。クリオネみたいなじーさんだ」


良子 「今日から吉川くんも丸見え爺さんの仲間入りだよ」


吉川 「別に見えてないじゃないか」


良子 「見えてるよ。心の薄汚い部分が」


吉川 「薄汚くなんかないっ! 失敬だな」


良子 「吉川くんの考えてることなんて、何でもお見通しなんだから!」


吉川 「じゃぁ、なに考えてるか当ててみろよ」


良子 「うんと……良子のことが、好き……きゃっ!」


吉川 「きゃっ! じゃない。そんなこと微塵も思ってない」


良子 「嘘ばっかりー。顔に書いてあるんだから」


吉川 「絶対に書いてない」


良子 「鼻水で」


吉川 「貴様っ!」



暗転

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