刀匠

吉川 「先生! お願いします!」


刀匠 「私は簡単に刀はうちません」


吉川 「そこをなんとか! 高名な先生の刀を!」


刀匠 「物を切るのは刀ではなく心です」


吉川 「承知しています。それなりの精神修行もしてきました」


刀匠 「爆乳くノ一!」


吉川 「……はい?」


刀匠 「ほほぉ。もっこりしないところを見ると相当修行を積んだようですね」


吉川 「いや、別にもっこりしませんよ!」


刀匠 「そうですか? 私が若い頃なら、ちょっと周りの人が引くくらいもっこりしましたけどね」


吉川 「そんなに!」


刀匠 「まぁ、ちょっとした武勇伝です」


吉川 「どうしようもない武勇伝だなぁ」


刀匠 「わかりました。あなたの心意気に打たれました」


吉川 「もっこりしないことが心意気だったのか」


刀匠 「だが先ほども言ったように、私の刀は心を写すものです」


吉川 「はい」


刀匠 「心が曇れば刀も曇る」


吉川 「はい」


刀匠 「心がウキウキなら刀もウキウキ」


吉川 「は、はぁ」


刀匠 「心ここにあらずならば、刀もここにはあらず」


吉川 「ど、どこに?」


刀匠 「おでこです」


吉川 「おでこ!?」


刀匠 「母さん、わしの刀知らんかね? いやですねぇお父さん。おでこにかけてあるじゃないですか。こりゃうっかり!」


吉川 「せっかく小芝居をしていただいたのになんですけど、おでこに刀はかけないかと……」


刀匠 「こりゃうっかり!」


吉川 「しつけーなぁ」


刀匠 「このように! 刀は心を写す!」


吉川 「どのようにだったんだ?」


刀匠 「試しに、私が先ほど暇つぶしに打った刀がある」


吉川 「暇つぶしに打ったんだ」


刀匠 「ちょっとしたレジャー気分で」


吉川 「さっきあれほど渋ってたくせに……」


刀匠 「名づけて、妖刀なんとか!」


吉川 「名づいてないじゃん。なんとかって!」


刀匠 「妖刀までは思いついたんだけど、後が面倒になった」


吉川 「面倒くさがるなよ」


刀匠 「とりあえずこのトランプを切ってください」


吉川 「は、はぁ」


刀匠 「どうぞ」


吉川 「きぇいっ!」


刀匠 「あ、バカ! 何で斬っちゃうの!?」


吉川 「え、何でって……。そっちが斬れって言ったから」


刀匠 「違うよ! ちょっとしたテーブルマジック見せようとしただけだよ!」


吉川 「えー! だって話の流れ的に……」


刀匠 「お前のせいでマジックが台無しじゃないか! タネも仕掛けもバレバレだよ」


吉川 「ご、ごめんなさい」


刀匠 「ちなみに好きなトランプのカードは?」


吉川 「ハートのエースです……」


刀匠 「あ、一枚だけ切れてないカードが!   ……確かめてください」


吉川 「わぁ! ハートのエースだぁ!」


刀匠 「ちゃ~ら~ん♪」


吉川 「いや、あの……」


刀匠 「ブラボー! ブラボー!」


吉川 「すごいですけど! すごいんですけども!」


刀匠 「タネは教えないよ」


吉川 「いや、すごいけど、これは手品がすごいんだ。刀のすごさじゃない!」


刀匠 「妖刀なんとかだからこそできた」


吉川 「そんな妖刀なの!?」


刀匠 「あと鞘に収めて引っこ抜くと……」


吉川 「わぁ! 花束に早代わり! ……ってバカ!」


刀匠 「どうじゃ!」


吉川 「いや、すごいのはわかりますよ!」


刀匠 「だろ?」


吉川 「でもこういうのは私が求めてる刀じゃ……」


刀匠 「はっは~ん。さては人体切断系?」


吉川 「えぇ……まぁ。どちらかというとそういう刀を」


刀匠 「そういうことならこれだよ。名づけて、名刀……」


吉川 「いや、思いつかないんならいいですよ! 無理に名づけなくて」


刀匠 「名刀イリュージョン!」


吉川 「もう、全然ダメっぽい」


刀匠 「これで斬るとっ!」


吉川 「うわぁっ!」


刀匠 「キレテナ~イ!」


吉川 「うるさいよっ! 危ないなぁ。なんだ突然斬りかかって」


刀匠 「ゴメン」


吉川 「ごめんじゃないよ! 本当に斬れたらどうするんだよ」


刀匠 「平気平気。斬れる刀じゃないもん」


吉川 「いや、斬れる刀を作ってよ!」


刀匠 「え~、そんなの危ないじゃん」


吉川 「危ないっていうかさ、マジックから離れよう。マジックとは係わり合いの無いところで刀が欲しい」


刀匠 「そんな無茶な注文は初めてだ」


吉川 「はじめてなのっ!? だっていたって普通じゃん!」


刀匠 「ゴメン。無理だわ」


吉川 「無理ってなんだよ! 斬れる刀つくれよ!」


刀匠 「まじゴメン。そういうことなら他当たってくれないかな」


吉川 「ゴメンですむかっ!」


刀匠 「切り捨て御免」



暗転

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