怪しいもの

怪人 「待ってくれ! 怪しいものじゃない」


吉川 「いや、めちゃくちゃ怪しいよっ! 怪人じゃないか」


怪人 「違う! ちょっと今日は服がアレだけど」


吉川 「服とかの問題じゃない!」


怪人 「今日は部屋着のまま着ちゃった。よそ行きのときはもっと気合入ってるよ!」


吉川 「よそ行きとかあるんだ。怪人の癖に」


怪人 「スパンコールとかふんだんにあしらってる」


吉川 「別にあしわらなくてもいい」


怪人 「今日は本当こんな格好でごめん」


吉川 「だから服装じゃないって! 全体的に怪人じゃん」


怪人 「怪人だよ? そういう遺伝子的な問題で差別するなよ」


吉川 「別に差別してるわけじゃ……ただ、怪しいもんじゃないって」


怪人 「怪しくないって! 清廉潔白な怪人だよ」


吉川 「そういう怪人もいるんだ……」


怪人 「隠すところなんか何一つ無いね! チャックの中見てもいいよ」


吉川 「チャ、チャック!? チャック付いちゃってるの!?」


怪人 「そりゃついてるよ。ハンケチやチリ紙が入ってる」


吉川 「あぁ……。普通のポケットなんだ」


怪人 「いや、俺ってこんなだけど根はいいやつなんだよ」


吉川 「はぁ……そうなんすか」


怪人 「気はやらしくて、病気持ちってタイプ?」


吉川 「最悪のタイプじゃないですか」


怪人 「喩えだよ! 実際はもう治ってるって!」


吉川 「持ってたことは持ってたんだ」


怪人 「本当に怪しいものじゃないから!」


吉川 「そんなこと言われてもなぁ……」


怪人 「じゃぁ、ほら、身分証明書」


吉川 「なにこれ! 怪人免許って!」


怪人 「免許だよ。合宿でとった」


吉川 「合宿でとるシステムなんだ!」


怪人 「いや、普通に教習所とかもあるけど、合宿のほうが安いし、出会いとかあるじゃん?」


吉川 「出会い求めるのか。怪人の癖に」


怪人 「怪人だって求めるよ! 差別するなよ」


吉川 「あ……いや、ゴメン。そんなつもりじゃ……」


怪人 「怪人だって恋もするし巨大化もする!」


吉川 「恋と巨大化は同列で語られることじゃないと思うけど……」


怪人 「まぁ、確かに巨大化は、そう簡単に出来ない」


吉川 「そう簡単にされても困る」


怪人 「俺も巨大化の仮免は苦労したよ」


吉川 「仮免!? また免許か」


怪人 「ほら、それの大型ってところ」


吉川 「あぁ……そういう意味なんだ。じゃ、二種って?」


怪人 「……え?」


吉川 「ほら、この二種ってのは?」


怪人 「これはお前……二種類だよ」


吉川 「なんだ二種類って。漠然としてるなぁ」


怪人 「だから、二種類の合成怪人可ってことだよ」


吉川 「あぁ。そういうことなんだ」


怪人 「タコと何かとか……」


吉川 「……もってませんよね? 二種」


怪人 「うるさいなぁっ! 二種は難しいんだよ。筆記試験とか」


吉川 「そういうのがあるんだ」


怪人 「どうせ俺は、いたって平凡なのタコ怪人だよ」


吉川 「いや。怪人の部分ですでに充分異常だと思います」


怪人 「二種免取ったら何と合成しようかなぁ……」


吉川 「はぁ……がんばってください」


怪人 「孤独とかどう?」


吉川 「え……」


怪人 「タコと孤独の合成怪人」


吉川 「いや、合成ってそういう概念もOKなんですか?」


怪人 「知らないけど。タコとイカじゃつまらないじゃん? 海鮮丼じゃないんだし」


吉川 「海鮮丼にしても地味すぎる」


怪人 「タコとわさびとかよくね?」


吉川 「タコわさじゃないですか! つまみっぽい」


怪人 「タコとウオノメってのはどう? 足の裏っぽくて」


吉川 「いいのか? そんな怪人でいいのか?」


怪人 「やだっ!」


吉川 「やだって……そんな力強く否定するなら提案しなきゃいいのに」


怪人 「タコと都バスってのは? 怪人オク都バス」


吉川 「駄洒落じゃん。別にどうだっていいけど」


怪人 「そんなぁ。態度がつれないよ」


吉川 「なんなんだ、あんた。慣れ慣れしい」


怪人 「いや、怪しい者じゃないです」


吉川 「それはわかったから。なんの用なの?」


怪人 「壺買いません? タコ壺なんだけど」


吉川 「違う意味で怪しい人だよ!」



暗転

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