忍者

上忍 「おぬしか、忍者になりたいと申すのは」


吉川 「は、はい!」


上忍 「修行は厳しいぞ」


吉川 「覚悟はできてます」


上忍 「しのびというのは心に刃を持つと書く」


吉川 「はい」


上忍 「つまり、ナイフみたいに尖っては、触るもの皆傷つけることだ」


吉川 「え……。そういう心なの?」


上忍 「わかってくれとは言わないが」


吉川 「いや! 前向きに善処します」


上忍 「そんなに俺が悪いのか」


吉川 「あの……歌がまだ続いてるの?」


上忍 「ララバイララバイおやすみよ」


吉川 「全部歌いきる気だ」


上忍 「ギザギザハートのリクエスト」


吉川 「いや、違うでしょ! リクエストする歌じゃないよ!」


上忍 「流行りのうっせぇうっせぇ言う歌の替え歌じゃ」


吉川 「違うと思うけど。すごい古いやつじゃない? 昭和の」


上忍 「そのくらい厳しいものだ」


吉川 「そのくらいって……全然伝わってこない」


上忍 「ではまず、語尾にゴザルをつけるところからだ」


吉川 「へ……いや……そういうのなんですか?」


上忍 「忍者の修行と言うのはこういう地味なものが多い。TVなどにでてくる華やかなものなど皆無じゃ」


吉川 「めちゃくちゃTV的な切り口だと思うんですが……」


上忍 「ござる、ござれば、ござる時」


吉川 「ござ……れば?」


上忍 「ござ行の変格活用じゃ」


吉川 「ござ行って……なんか色々なところで間違えてる気が……」


上忍 「まぁ、素人にいきなりは危険だから例文を用意した」


吉川 「危険なの!? どういう経緯で危険になるの!?」


上忍 「ドヒャー! カエルは嫌いでござるぅ~!」


吉川 「ハットリ君じゃないか」


上忍 「リピートアフタミープリーズ!」


吉川 「どひゃぁ……カエルは嫌いでござる……」


上忍 「まぁ及第点だな」


吉川 「使い道のなさそうな例文だなぁ……」


上忍 「ばかもんっ! 基本的に忍者はカエルが嫌いじゃ!」


吉川 「えぇー! そんな弱点が……しかも基本で」


上忍 「他人に言っちゃダメでござるよ!」


吉川 「言わないけど……」


上忍 「オタマは案外平気」


吉川 「いや、別にどうでもいいです」


上忍 「次は発展系。バーゲンセールはコリゴリでござるよ。ニンともカンとも」


吉川 「……はぁ」


上忍 「はぁじゃない! リピートアフタミークラス!」


吉川 「バーゲンセールはコリゴリでござるよ。ニンともカンとも……」


上忍 「惜しい! ポイントはアイリスアウトじゃ。どんどん丸が小さくなって最後に顔だけになる」


吉川 「いや……そんなこといわれたって」


上忍 「あともうちょっとトホホ感が欲しいところ」


吉川 「トホホ感て……忍者と何の関係があるんだ」


上忍 「おおありじゃ! 忍法おおありじゃ!」


吉川 「いや、忍法なの? なに、突然」


上忍 「おっといかんいかん。里の秘術をウッカリ出してしまった」


吉川 「出しちゃったの!? もう? 里の秘術を!?」


上忍 「死ぬね。こりゃ」


吉川 「死んじゃう術なの! 忍法おおありが!?」


上忍 「確実に死ぬね。誰かが」


吉川 「いや、誰かって……なんでそこが曖昧なんだ」


上忍 「こうしてる間にも地球上ではたくさんの命が失われてると言うことを活用した術」


吉川 「自然じゃん! 自然の摂理じゃん! 術じゃないよ」


上忍 「わしクラスになるとこのくらいの術は余裕」


吉川 「……なんかもういいっすわ」


上忍 「いいって、何が?」


吉川 「忍者いいっすわ。なんか忍法とか変だし」


上忍 「待って! 忍法待って!」


吉川 「それも忍法なのか。待たないけど」


上忍 「忍法行かないで!」


吉川 「いや、行きますよ。忍法効いてないし」


上忍 「どうしても抜けると言うのか?」


吉川 「はい」


上忍 「抜け忍は死ぬまで狙われつづけるぞ」


吉川 「でも、そんな忍法でしょ?」


上忍 「ばか! 本番はもっとすごいよ! 泣くぞ?」


吉川 「泣くくらいいいですよ」


上忍 「えーと……あれだ。知らない間に変な噂とかたってるよ? いいの?」


吉川 「やですよ! そんな陰険なのやめてくださいよ」


上忍 「吉川は小学校の頃、いっつも給食食べるの遅くて残されてたって言うぞ!」


吉川 「意外とダメージの少ない噂だなぁ……」


上忍 「吉川は本当はカエルが嫌いとか言うもん!」


吉川 「いや、別に嫌いじゃないですよ。自分じゃないですか」


上忍 「ばか! オタマは案外平気だよ!」


吉川 「なにが案外なんだ。本当にどうでもいい」


上忍 「しかし、突然抜け忍とは、何か他に理由があるな?」


吉川 「何かって……別に失望しただけです」


上忍 「さてはお前……恋したあの娘と二人して街を出ようと決めたんだな!」


吉川 「誰だ。恋したあの娘って」


上忍 「駅のホームで捕まって」


吉川 「またギザギザハートか……」


上忍 「力任せにっ……リクエスト!」


吉川 「また間違っちゃってる」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る