記憶喪失

藤村 「だ~れだ?」


吉川 「え……」


藤村 「ジャーン! 私でした」


吉川 「……誰ですか?」


藤村 「さぁ。……誰なんでしょ」


吉川 「いや、なにそれ?」


藤村 「私は一体誰なんだ?」


吉川 「ひょっとして……」


藤村 「あぁ。……ド忘れした」


吉川 「いやいや、ド忘れのレベルじゃないでしょ。記憶喪失でしょ」


藤村 「そうだ! 記憶喪失だ。あぁ、すっきりした」


吉川 「それをド忘れしたのか」


藤村 「いやぁ、ありがとうございました」


吉川 「まだ何も解決してないでしょ」


藤村 「そうだった。じゃ、次の人にだ~れだをしてきます」


吉川 「そんな方式で突き止めようとしてるの? 総当たり式で?」


藤村 「考え付く限り最良の方法を選んだつもりです」


吉川 「それが最良か。全然考え付いてないじゃん」


藤村 「すごい有名人になる、とか考えたんだけどプロセスが大変そうで……」


吉川 「確かに、無謀な計画だ」


藤村 「一応カードマジックとか得意なんですよ。これでのし上がろうかと」


吉川 「えらいちっちゃい山に登ろうとしてるなぁ」


藤村 「マジック界のマリックと呼ばれる」


吉川 「いや、マリックはすでにマジック界所属だからなれないよ」


藤村 「あ、俺って……マリック?」


吉川 「違うよ。明らかに違うよ。なに自己暗示かけてるんだ」


藤村 「マリ……アン?」


吉川 「いや、男じゃん。よりによってマリアンて」


藤村 「マリッジブルー? あんな人だとは思わなかった!」


吉川 「知らないよ。そんなこと思い出さなくていい」


藤村 「そんなわけで、マリッジブルー以外何も思い出せないんです」


吉川 「なにか身元がわかるものとかないんですか?」


藤村 「それが、免許証以外なにもなくて」


吉川 「わかるじゃん。わかりすぎちゃうよ。その免許に書いてあるのがあなただよ」


藤村 「本当ですか!? 気がつかなかったー」


吉川 「つこうよ。まず始めに気がつこうよ」


藤村 「なるほど。じゃ、私は……なめ猫という名で」


吉川 「待て待て待て。なんの免許だ」


藤村 「いや、どう見ても猫の免許証なんですが。私も若い頃は猫だったのかにゃ~」


吉川 「にゃ~じゃない。それはただの懐かし面白グッズだ」


藤村 「ですよにゃ~。ひょっとしたら猫なのかとも思ったにゃ~」


吉川 「にゃ~はいいから。人間だから。そこは疑わないで」


藤村 「やっぱり人間だったヒトー」


吉川 「別に人間は語尾にヒトーってつけない」


藤村 「そうだった。猫だった時代の癖が……」


吉川 「そんな時代はない。暗示にかかりやすい人だなぁ」


藤村 「いまのところわかったのは、人間で尚且つマリッジブルーだったということだ」


吉川 「人間の部分は初めからわかっていたでしょ」


藤村 「正直、あんまり自信はなかった」


吉川 「自信持ってよ。しっかり!」


藤村 「でも百年生きた猫は化けるっていうじゃないですか」


吉川 「え……。で、でも人間っぽいですよ?」


藤村 「本当にそういいきれますか? あなたは私のなにを知ってるんですか?」


吉川 「いや、そう言われるとマリッジブルーなこと以外知らないですけど」


藤村 「ほら、やっぱり私は猫だったんじゃないですか」


吉川 「だからと言って猫だと決め付けるのは早計だと思いますけど」


藤村 「じゃ、私は誰なんだ? 一体誰だというんだ!」


吉川 「冷静になりましょ。ほら、ツメとがないで。柱で必死にツメを研がないで」


藤村 「なめんなよ!」


吉川 「なめてませんよ。落ち着いてください」


藤村 「どうせ私は、猫の額くらい心が狭いやつなんだ」


吉川 「そんなことないですよ。急に自暴自棄になって、どうしたんですか?」


藤村 「いままでは、猫かぶってた」



暗転



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