殺しのライセンス

吉川 「あの~ライセンスを取りたいんですけど……」


教官 「はいはい。はじめてですか?」


吉川 「はい」


教官 「普通免許でいいのかな?」


吉川 「普通って言うか、……他に何があるんですか?」


教官 「小型免許、普通免許、大型免許、あと二種免許もあるね」


吉川 「小型ってのは、……具体的に言うと?」


教官 「小型はちっちゃいのだよ。大型は大きいの」


吉川 「いや、大きいとか。あの、あれですよね? こちら殺しのライセンスの……」


教官 「そうですよ」


吉川 「小さいとかあるんですか?」


教官 「身長152cm以下は小型免許でOKですね。逆に象とかは大型」


吉川 「象は標的にしないと思うんですが。……二種って言うのは?」


教官 「二種類だよ」


吉川 「な、なにが?」


教官 「免許の色が」


吉川 「え、それだけ?」


教官 「青と赤だと飛び出すよ」


吉川 「いや、飛び出さなくていいです」


教官 「そう? 結構人気あるんだよ? 飛び出る免許」


吉川 「結構です。普通免許で」


教官 「チェ・ホンマンとかは大型になりますが?」


吉川 「大丈夫です。ホンマンは狙いませんから」


教官 「吉川さんはじめて?」


吉川 「はい」


教官 「今まで無免許で殺したりしたことは?」


吉川 「ないですよ!」


教官 「まったく?」


吉川 「はい」


教官 「仏教徒?」


吉川 「なんでですか」


教官 「虫も殺さぬ性格?」


吉川 「いや、虫くらいは殺してるかもしれませんが。……それも?」


教官 「当たり前ですよ。一寸の虫にもボブの魂ですよ」


吉川 「誰ですかボブって」


教官 「ロバートの略称です」


吉川 「いや、そういう意味じゃなくて」


教官 「一寸の虫にもデブの魂だっけ?」


吉川 「いや、デブの魂は一寸には納まりきらないかと……」


教官 「あ、ゴブ……ゴブリン?」


吉川 「惜しい!」


教官 「ボブゴブリン!」


吉川 「遠のいた!」


教官 「ゴブリンメイジ!」


吉川 「種類じゃない。五分ですよ」


教官 「途中まであってるじゃん」


吉川 「途中以降に余計なものがついてる」


教官 「そういう細かいところ気にしてるとダメ!」


吉川 「ダメって……」


教官 「すぐ死ぬ」


吉川 「えー。根拠ねー!」


教官 「虫に殺される」


吉川 「うわぁ、話にならない」


教官 「チクっと刺されて死ぬ」


吉川 「それで死んじゃうんだ」


教官 「心の痛いところを」


吉川 「メンタル面を攻められるのか。虫ごときに」


教官 「蝶のように舞いハチのように舞う」


吉川 「舞ってばっかりだな」


教官 「サナギのように寝る」


吉川 「なにを表現したいのかわからない」


教官 「幼虫のように脱皮」


吉川 「脱皮はしないでしょ」


教官 「一皮むけて大人になる」


吉川 「もう虫はいいですよ」


教官 「えー。まだ貴重な産卵シーンがあるのに」


吉川 「心底どうでもいいです」


教官 「見所満点だぜ」


吉川 「いや、そんなことよりもライセンスの発行を……」


教官 「あぁ。じゃ、ここに現住所と本名を記入してください」


吉川 「本名まずいんじゃ……」


教官 「あ、一応コードネームで呼びますから。ゴルゴ418」


吉川 「え? 全部ゴルゴなの? ゴルゴ一括扱い?」


教官 「いや、ゴルゴ待ちなら418です。他のがよろしいですか?」


吉川 「できれば……」


教官 「じゃ、マリモ19で」


吉川 「やっぱりゴルゴの方がいいです。マリモで18人もいるのか」


教官 「サルサ1529ってのが一番多いですね」


吉川 「1500人も! いったいどんな殺し屋なんだ」


教官 「どんなって、蝶のように舞いハチのように舞う……」



暗転

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