読心術
吉川 「あなたが、人の心が読めるという仙人様ですか?」
仙人 「いかにも」
吉川 「本当にいたんだ」
仙人 「うわぁ……、嘘っぽい」
吉川 「え……」
仙人 「そう思ったんだろ?」
吉川 「はっ!? まさか……私の心を?」
仙人 「たやすいことよ」
吉川 「おみそれしました」
仙人 「……とかなんとかいっちゃったりしちゃったりしてー」
吉川 「う……」
仙人 「広川太一郎風で表現してみた」
吉川 「疑って申し訳ございません」
仙人 「……といいつつ、もう一回だけ疑ったりして」
吉川 「参りました」
仙人 「これでわかったかな」
吉川 「しかし、あの……もう一つだけ」
仙人 「よろしい。ではここにトランプがあります」
吉川 「マジックみたいになってきた」
仙人 「いまからお前の心を読む」
吉川 「はい」
仙人 「このトランプの色は……」
吉川 「は……え?」
仙人 「赤!」
吉川 「え……。いや、赤ですけど」
仙人 「どうじゃ!」
吉川 「どうじゃって、それ見たままじゃ……」
仙人 「赤だと思っただろ!」
吉川 「だって、それは聞いたから……」
仙人 「今日はここまで」
吉川 「え、トランプは? 使わずじまいなの?」
仙人 「さ、帰った帰った」
吉川 「いや、なに? 面白い出し物のコーナーで終わり?」
仙人 「待っててももうやらないよ」
吉川 「いや、そうじゃなくて。そんな芸を見に来たわけじゃなくて!」
仙人 「おぬしの目的はわかっておる」
吉川 「はっ!? 読まれた」
仙人 「伝授して欲しいのだろ?」
吉川 「ぜひとも!」
仙人 「厳しいぞ」
吉川 「覚悟はできてます」
仙人 「では復唱しなさい」
吉川 「はい」
仙人 「な~んてことになっちゃったりしちゃったりしてー!」
吉川 「な……え?」
仙人 「な~んてことになっちゃったりしちゃったりしてー! はい」
吉川 「いや、はいじゃなくて。なんですか?」
仙人 「基礎中の基礎じゃよ。広川太一郎のモノマネの」
吉川 「いや、そんなもの伝授しなくていいですよ。いらない!」
仙人 「そんなものだと!?」
吉川 「そうじゃなくて。あの、読心術の方を……」
仙人 「あぁ、そっちの。なぁ~んだ。じゃ8000円ね」
吉川 「微妙にありがたみがない価格だな」
仙人 「ローンも可」
吉川 「いや、払いますけど……」
仙人 「ちなみにこの読心術は一子相伝じゃ。そうやすやすと教えることはできん」
吉川 「だって……8000円」
仙人 「それは試験料。これから試験を受けていただきます」
吉川 「そんなぁ」
仙人 「お前の心を読む試験じゃ。嘘はつけない」
吉川 「……わかりました」
仙人 「鏡と言えば!」
吉川 「なんですか急に!」
仙人 「なるほど。マジックミラー号か……合格!」
吉川 「え、合格なの? なんの基準?」
仙人 「お前の心意気をためした」
吉川 「どういう心意気が見えたんだ」
仙人 「それでは、伝授にはいるぞ」
吉川 「はい!」
仙人 「あ! いま仙人ちょれ~って思った!」
吉川 「え……。いやいや。思ってません」
仙人 「読めるんだからね!」
吉川 「ごめんなさい。気が緩みました」
仙人 「あと、いいかげんマジックミラー号のことは忘れなさい」
吉川 「あなたのせいでしょうが!」
仙人 「思考の90%がマジックミラー号だ。読んでるだけでオギオギしちゃう」
吉川 「勝手に人の妄想でオギオギしないでください!」
仙人 「それでは伝授に入る」
吉川 「はい。覚悟はできてます」
仙人 「はい。おつかれさま」
吉川 「え……」
仙人 「終わったよ」
吉川 「え? え? もう?」
仙人 「うん。読めると思うよ」
吉川 「あ! 本当だ! ……自分だってマジックミラー号のことばっかりじゃないですか!」
仙人 「バレた!」
吉川 「しかし、これだけ簡単なら……」
仙人 「いったじゃろ。この技は一子相伝じゃ。お前に伝えればわしの力は消える」
吉川 「え、まさか……」
仙人 「わしの考えてることを読んでみよ」
吉川 「そ、そんな! そんなことだったなんて!」
仙人 「それでは後のことは任せたぞ」
吉川 「ま、待ってください!」
暗転
明転
藤村 「あなたが、人の心が読めるという仙人様ですか?」
吉川 「いかにも。いや、正確に言えば1001人目じゃ」
暗転
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