36丁目の奇跡

裁判長 「本件は世間の注目を浴びている大変重要な裁判です。では冒頭陳述を」


弁護人 「被告は時を止める能力者であると主張しております。いうなればこの裁判は、時を止める能力が現実に存在するのかどうかを問われることになります」


検事  「では被告人を証人として召喚します。あなたは当法定で真実のみを述べることを誓いますか?」


被告人 「誓います」


検事  「では質問をします。あなたは普段は何をされてるのですか?」


被告人 「大人向けのレジャーコンテンツを制作しています」


検事  「大人向けの。それは具体的にはどういったものですか?」


弁護人 「異議あり! 具体的に言わなくてもみんなわかってると思います」


裁判長 「異議を認めます。みんなわかってます。よく知ってます」


検事  「ではあなたのその時を止める能力、実際に使うことはできますか?」


被告人 「できます」


検事  「今、この場で?」


被告人 「はい」


検事  「これは驚いた。では是非とも実践していただきたいものです。それを見れば一目瞭然、この裁判はこれ以上やる必要もない」


被告人 「はい。やりました」


検事  「はい? どういうことですか?」


被告人 「止めました。結構長いこと」


検事  「今あなたは時を止めたたのですか?」


被告人 「止めてました」


検事  「それをあなた以外が認識することはできますか?」


被告人 「……できません」


検事  「結構です。このように客観性のない事象をありうると言い張るのを認めていては法の精神は崩壊します。以上です」


裁判長 「弁護人からはなにかありますか?」


弁護人 「ありません。……あ~ん♪」


裁判長 「どうしました? 今のあ~ん♪ はなんですか?」


弁護人 「わかりません。身体が勝手に。いやぁ~ん♪」


裁判長 「ひ、被告人! 今止めましたか?」


被告人 「止めました」


裁判長 「止めて、なにかしましたか?」


被告人 「止めて、なにかしました」


裁判長 「弁護人に」


被告人 「止めて、2回なにかしました」


検事  「裁判長! これはペテンです。弁護人は予めこのような小芝居を打つことで法廷を混乱させようとしているのです。これは法廷侮辱罪です」


裁判長 「確かに。被告人。もう弁護人には何もしないで下さい」


被告人 「わかりました」


傍聴席 「あ~ん♪」


裁判長 「!? 今、傍聴席で、あ~ん♪ ってしましたね?」


被告人 「時を止めて傍聴席でしました」


裁判長 「ちょっと、その人どの人?」


弁護人 「裁判長、言うまでもないことですが、予告されていないもの証人として呼ぶことはできません」


裁判長 「でも、あ~ん♪ って」


傍聴席 「いやぁ~ん♪」


裁判長 「ほら! いやぁ~ん♪ って!」


検事  「とんだ茶番です! このような法廷……クッ、クックッ、殺せー!」


裁判長 「ほらほら! 検事も。クッ、殺せ! って耐えてるじゃん」


被告人 「止めて検事にしました」


検事  「クッ……、いっそのこと殺せぇ!」


裁判長 「もう女騎士みたいになってるもん。これは認めざるを得ませんね。被告人?」


被告人 「はい」


裁判長 「疑いはほぼ晴れたようです。ただここで私がもうちょっと粘ると、順当に行くと今度は私ってことになりますか?」


被告人 「……」


裁判長 「被告人、答えて下さい。今度は私になにか起きうるということに?」


被告人 「すみません。タイプじゃないんで」


裁判長 「有罪!」



暗転

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