怪盗

富豪 「しかし怪盗吉川は本当にくるんですかね?」


警部 「確かに予告上は来たのでしょ?」


富豪 「はい。この通り」


警部 「今夜0時きっかりにナイルの星をいただきにまいります。怪盗吉川」


富豪 「初めはたちの悪い冗談だと思ったのですが……」


警部 「あの男が一度盗むと言ったものを盗まなかったためしはありません」


富豪 「しかしこの警備体制では……」


警部 「やつは変装の名人です。すでにこの中にももぐりこんでるかもしれません」


富豪 「そんなバカな」


警部 「フフフ……フフフフフ……」


富豪 「け、警部?」


警部 「ハハハハハ……」


富豪 「まさかっ!?」


警部 「ペリペリペリ……」


富豪 「あっ!? お前は!」


警部 「警部です」


富豪 「な~んだ。警部かぁ。脅かさないで下さいよ」


警部 「かさぶたがかゆかったので剥いでしまいました」


富豪 「びっくりしたー。かさぶただったんだ」


警部 「しかしもう23時55分です。いまのところ何もありませんな」


富豪 「怖気づいて逃げたんじゃないですかね?」


警部 「怖気づいただとっ!? 誰に言ってるんだ!」


富豪 「え……」


警部 「しまった! ばれてしまっては仕方ない……」


富豪 「まさかっ!?」


警部 「ペリペリペリ……」


富豪 「あっ!? お前はっ!」


警部 「警部です」


富豪 「な~んだ。警部かぁ。脅かさないで下さいよ」


警部 「怖気づいてペリペリ震えてたのがバレてしまいました」


富豪 「震えだったんだ。不思議な擬音で震える人だなぁ」


警部 「いやはやお恥ずかしい」


富豪 「でも、もう来そうにありませんな。……いたっ! 何をする!」


警部 「失礼。あなたが怪盗吉川の変装でないか顔を引っ張らせていただきました」


富豪 「あぁ、そういうことですか。では私も失礼して……」


警部 「……ペリッ」


富豪 「……え?」


警部 「フフフフフ……良くぞ見破った」


富豪 「まさかっ!?」


警部 「ペリペリペリ……」


富豪 「あっ!? お前はっ!」


警部 「警部です」


富豪 「な~んだ。警部かぁ。脅かさないで下さいよ」


警部 「あごを引っ張られるとついついペリカンの鳴きマネをしてしまう癖を見破られました」


富豪 「ペリカンの鳴きマネだったんだ! でも、ペリカンはペリペリって鳴かないと思うけど……」


警部 「そうなの?」


富豪 「たぶん」


警部 「外国のペリカンも?」


富豪 「いや、国ごとに鳴き声かわらないでしょ」


警部 「あちゃ~、しくじった」



暗転



富豪 「えっ!?」


警部 「動かないでッ! やつが来ました」


富豪 「そんな! 私のナイルの星が」


警部 「大丈夫。予備電源があるのですぐに復旧します」



明転



富豪 「あ……。ついた。私の! ナイルの星は!?」


警部 「見てください。無事です」


富豪 「よかったぁ」


警部 「今度ばっかりはさすがの怪盗吉川も手が出なかったようです」


富豪 「ありがとうございました」


警部 「いや……、しかし待てよ?」


富豪 「なにか?」


警部 「やつにしてはやけにあっさりしすぎている。ひょっとしてニセモノと入れ替わってるのかも!」


富豪 「すぐに確かめないと! 高圧電流をきってくれ」


警部 「……だとしたらやつめ、いつの間に」


富豪 「この……ナイルの星がニセモノ?」


警部 「失礼。確かめさせてください」


富豪 「……どうです?」


警部 「フフフフフ……」


富豪 「本物なんですか!?」


警部 「ハハハハハ……、確かに本物だ!」


富豪 「よかった」


警部 「こいつはいただいてくぜ」


富豪 「なんだって!?」


警部 「……まだわからにのかい?」


富豪 「まさかっ!?」


警部 「ペリペリペリ……」


富豪 「あっ!? お前は!」


警部 「警部です」


富豪 「な~んだ。警部かぁ。脅かさないで下さいよ」


警部 「あ~ばよ~」


富豪 「お疲れ様でしたー」


富豪 「……」


富豪 「……」


富豪 「……」


富豪 「……ハッ!」



暗転

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