ロケットパンチ

吉川 「やべっ! 忘れた」


藤村 「なに?」


吉川 「ロケットパンチ。どうしよう……」


藤村 「え? 言ってる意味がわからない」


吉川 「ホラ。忘れてきちゃった」


藤村 「うわぁ! 手の先がない!」


吉川 「ポケットに手を突っ込んでたから気がつかなかったよ」


藤村 「いやいや、何でロケットパンチになってるの?」


吉川 「なんでって、物騒な世の中だから」


藤村 「え。護身用? 護身用にロケットパンチ?」


吉川 「あー! カバンの中に入ってた。よかったー」


藤村 「よ、よかったね」


吉川 「これがなかったら時計はめられないもんなぁ」


藤村 「え、そういう問題なの? もっと重要なことあるんじゃない?」


吉川 「だって時計がスポッて落ちちゃうんだよ?」


藤村 「まぁ、困るね。でもどうやってロケットパンチに」


吉川 「なんかね。練習してたらできるようになった」


藤村 「いや、まず練習っていうのが意味わからない」


吉川 「ロケットパンチの練習だよ。まずこう……手首をはずして」


藤村 「そこがすでにおかしい! はずれないよ」


吉川 「あ、最初はすごい固いからね、でも右回しで緩んでくから」


藤村 「ネジ式なの? そういうパーツなの?」


吉川 「慣れればすぐ取れる」


藤村 「取れないよっ! そんなこと言ったら首だってとれちゃうじゃん」


吉川 「バカだなぁ。首なんか取ったら死んじゃうだろ」


藤村 「手首も同じだと思うけど……」


吉川 「でもロケットパンチ便利だぜ。背中痒いけど届かない時とか」


藤村 「こじんまりした使い方だなぁ」


吉川 「しゃがまなくてもお金拾えるしね」


藤村 「ずいぶんとミニマムに活用してるな」


吉川 「お前もやってみるといいよ」


藤村 「できないよっ! 普通の人間には無理だよ!」


吉川 「え……」


藤村 「そんな気持ち悪いことできるか!」


吉川 「き、気持ち悪い……」


藤村 「あ、ごめん」


吉川 「実はほんのちょっと変だなぁ、って思ってたんだ。もしかして俺って異常?」


藤村 「う、うん」


吉川 「やっぱり! 納豆に砂糖入れるって言った時もみんなの目が違ったし」


藤村 「いや、それはまだ理解可能な範疇だ。俺は絶対にしないけど、理解はできる。ロケットパンチとは違う」


吉川 「俺、人間じゃないのかな。納豆砂糖入れマンなのかな?」


藤村 「そんな回りくどいマンはいない。平気だよ」


吉川 「慰めはよしてくれっ! 納豆に砂糖を入れないお前に俺の気持ちがわかるか!」


藤村 「入れるよ! 今度チャレンジしてみるから!」


吉川 「畜生、同情なんていらない! 死んでやる!」


藤村 「はやまるな!」


吉川 「リストカットしてやる!」


藤村 「それは無理ー」



暗転



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