タクシー

吉川  「え~と、三軒茶屋まで」


運転手 「はい。お客さん、こんな時間まで仕事ですか?」


吉川  「はぁ」


運転手 「大変ですねぇ、世間はお休みだって言うのに」


吉川  「まぁ、仕事がないよりはね」


運転手 「確かにそうですね。お客さんてあれですか? 霊感とか強い方ですか?」


吉川  「なんですか急に」


運転手 「この辺ね、……でるんですよ」


吉川  「出るって、もしかして……」


運転手 「湧き水」


吉川  「名所じゃん! そういうトーンで紹介するもの?」


運転手 「美味いですよぉ」


吉川  「霊感関係ないじゃん。なに? 今のフリ」


運転手 「いやいや、本当に出るんですよ」


吉川  「湧き水がでしょ?」


運転手 「違いますよ! 幽霊ですよ」


吉川  「あぁ、幽霊ね。本当に出るんだ」


運転手 「湧き水から」


吉川  「やな湧き水だなぁ」


運転手 「ビショビショになって現れるらしいですよ」


吉川  「うわぁ……」


運転手 「一反もめんが」


吉川  「そういうのか。ビショビショになっちゃダメじゃん。飛べないじゃん」


運転手 「もうその辺に落ちてるの。ビッチョビチョになって」


吉川  「うわぁ……」


運転手 「次の日タイヤの跡とかついててね」


吉川  「轢かれちゃったんだ」


運転手 「乾いた頃にはもうボロボロになっちゃって」


吉川  「違う意味でいやな幽霊だなぁ」


運転手 「ふふ……」


吉川  「……どうしたんですか?」


運転手 「お客さんの座っているそのシート……」


吉川  「シート?」


運転手 「……ボロボロでしょ?」


吉川  「まっ、まさかっ!?」


運転手 「うちの女房が心をこめて縫ったんです」


吉川  「自慢か。手作り自慢だったのか」


運転手 「そこにキティーちゃんのアップリケあるでしょ?」


吉川  「はぁ、ありますね」


運転手 「娘がね……、好きだったんですよ……」


吉川  「好きだったって……ひょっとして……」


運転手 「今は私のほうが大好きなの」


吉川  「なんだよ。気持ち悪いなぁ」


運転手 「お恥ずかしい、この年になってハマってしまって」


吉川  「知らないよ。あんたさっきから思わせぶりだなぁ」


運転手 「いやぁ、……久しぶりのお客さんで嬉しいんですよ」


吉川  「久しぶりって……」


運転手 「この辺でね、人食いタクシーって言うのがでるらしくてね……」


吉川  「……」


運転手 「実はこの私が……」


吉川  「ギャー!」


運転手 「食われかけちゃいまして」


吉川  「お前がか。被害者の方か」


運転手 「もう、超怖いの。ダッシュで逃げましたよ」


吉川  「そりゃ逃げるよな。人食いだもん」


運転手 「ちょうどこんなタクシーだったんですよ」


吉川  「いやぁ、でも逃げれたんならよかったじゃないですか」


運転手 「いいえ。結局逃げ切れませんでしたよ……」



暗転

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