ジャンケン

二人 「じゃんけんぽんっ!」


吉川 「……」


藤村 「勝ちぃ!」


吉川 「ちょ、ちょっと待てよ。なんだよ今の」


藤村 「新しいジャンケンの型」


吉川 「なんだよそれ。勝手に考案するなよ。しかも勝つなよ」


藤村 「お前は封建的だな。ジャンケンもそろそろ新しいステージに移行する時代だぞ」


吉川 「そうなの?」


藤村 「そうだよ。グーなんて、いまどき石だぜ? 石器時代から変わってないじゃないか」


吉川 「石器時代のグッズじゃないと思うけど」


藤村 「だから俺は新しい型を考案した」


吉川 「それ、なんて言う名前なの?」


藤村 「ポツンだよ」


吉川 「ポツンか。……いったい何を模した型なんだ」


藤村 「ポツンは孤独だな」


吉川 「孤独っ!? 概念なの?」


藤村 「物質で快楽を得る時代は高度経済成長までだ。それからは精神の時代」


吉川 「いや、言ってる事はもっともっぽいけど。……そのポツンは、どれに勝つんだ?」


藤村 「パーに勝って、チョキに負ける」


吉川 「グーには?」


藤村 「グーには、いまのところ六勝四敗」


吉川 「なんだ、その安定感のない勝率は」


藤村 「メンタルの要素が大きく絡んでくるんだよ」


吉川 「そうなんだ……」


藤村 「あと、Wi-fiが強い場所だと抜群の強さを発揮する」


吉川 「地形効果みたいなもんだな」


藤村 「それを踏まえて、もう一度勝負だ」


吉川 「わかった」


二人 「じゃんけんぽんっ!」


吉川 「……」


藤村 「勝ちぃ!」


吉川 「勝ちなの? それ。俺、ポツンじゃん」


藤村 「これは、ヒャーだもん。ポツンには勝つよ」


吉川 「ヒャーってなんだよ! そんなの聞いてないよ」


藤村 「ヒャーはロマン」


吉川 「また概念か」


藤村 「グーに勝って、パーに負ける。チョキとは親友」


吉川 「なんだ、親友って」


藤村 「心許しあえる友」


吉川 「いや、親友の説明じゃなくて、親友は勝負の結果はどうなんだ」


藤村 「親友同士は結果とか関係なく和解する」


吉川 「なんだよ、和解って。あいこか?」


藤村 「いや、もうジャンケンとかどうでもよくなって、お互い笑いあう感じ」


吉川 「成立してないじゃん。ジャンケンとして成立してないじゃん」


藤村 「ポツンにはボロ勝ち。二回勝つくらいの意味がある」


吉川 「ロマン強いなぁ。なんだっけ?」


藤村 「ヒャー」


吉川 「ヒャーは強い」


藤村 「だろ? 面白くなってきただろ?」


吉川 「釈然としないけどな」


藤村 「じゃ、もう一回」


二人 「じゃんけんぽんっ」


吉川 「……え~と」


藤村 「チクショウッ! 負けたぁ」


吉川 「それは何?」


藤村 「これはルン」


吉川 「……で、なんの概念?」


藤村 「愛」


吉川 「愛かぁ。強そうな気がするな……」


藤村 「ほとんどの型に八割の勝率を誇る」


吉川 「えー、そんな強いのにどうして負けたんだ」


藤村 「同性同士だと負ける」


吉川 「割と古いジェンダー感だな」


藤村 「そのうちアップデートされる。5年もすればほぼ全勝になるんじゃない?」


吉川 「時代性によって変わるのは困るだろ」


二人 「じゃんけんぽんっ」


吉川 「これまた、難しい型だしてきたなぁ」


藤村 「これは……え~と……」


吉川 「え? 今考えてるの?」


藤村 「バカッ! ちゃんと考えてるよ……えーと……電子レンジ」


吉川 「なんだよ。いきなり物じゃん。しかも文明的な」


藤村 「これは、温かくなる」


吉川 「温かくって何だ。何に勝って、何に負けるんだ」


藤村 「いや、勝ち負けとか関係なく、温まる」


吉川 「勝負に関係ない型を開発するなよ」


藤村 「バカッ! 冬場とか寒い時に効果を発揮する」


吉川 「本当に温まるんだ」


藤村 「あと、孤独が弱くなる」


吉川 「暖められて気を許しちゃうんだ」


藤村 「これらの効果型もこれからどんどん開発されていく」


吉川 「どんどん複雑になっていくなぁ」


藤村 「マンネリ化したジャンケンに革命を興す!」


吉川 「新ジャンケンで旧ジャンケンを駆逐しよう!」


藤村 「ジャンケン界に一石を投じる、その決意の型がこれ。理論上最強」


二人 「ジャンケンポン」


吉川 「俺の勝ちだよな」


藤村 「なんでだよ。俺のは一石を投じる……」


吉川 「俺はパーだもん」



暗転




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