野生の吉川

藤村 「教授! あれはまさかっ!」


教授 「うむ。たしかにアレは野生の吉川じゃ!」


藤村 「野生の吉川を発見するなんて、これは下手すると学界がひっくり返りますよ!」


教授 「確かに。野生の吉川は世界に六体しか確認されておらんしな」


藤村 「アレはマダラ吉川モドキでしょうか?」


教授 「いや、ニホン吉川じゃな。スーツの衿の形に特徴がある」


藤村 「さすが教授。吉川学の第一人者」


教授 「しかしどうもおかしいな」


藤村 「やはりそうでしょ? これはひょっとして新種の吉川では?」


教授 「う~む。ニホン吉川だと思うのだが、色が若干ピンクがかってるなぁ」


藤村 「新種ですよ! 新種!」


教授 「いや、待ちたまえ。鳴き声が」


吉川 「はぁ、やりてぇ」


藤村 「教授! 今のは! 今の鳴き声は!」


教授 「どうやらはっきりしたようじゃな。きっとこのニホン吉川は発情期を迎えてるらしい」


藤村 「どおりで!」


教授 「しかし我々はとんでもない場面に遭遇したのかもしれん」


藤村 「発情期の吉川の発見例は?」


教授 「いまのところ、前例はない」


藤村 「教授! ということは!」


教授 「うむ。慎重に見守らねば」


藤村 「あ、見て下さい教授、吉川が動き始めましたよ」


教授 「あれはまさしく、吉川の求愛行動じゃ! なんということだ、この目で見ることになるとは」


藤村 「鳴き声のサンプルをとりましょう」


吉川 「違うって! 愛してるからっ!」


教授 「非常に力強い鳴き声じゃな」


藤村 「私はこころなしか物悲しく聞こえます」


吉川 「あのさこれ、君のために用意したんだけど」


藤村 「これは吉川学で言うところの貢ぎ行為ですか?」


教授 「うむ。メスの気を引くためにモノで。さすが高度な知能を持っておる」


吉川 「カードダスなんだけど、喜んでくれるかな?」


藤村 「カードダスを貢ぎましたね」


教授 「うむ。これは貴重なデータになるぞ」


藤村 「しかし、メスに対してカードダスとは」


教授 「甘いな。よく見たまえ」


藤村 「え? あれはカードダあっ!? 教授! キラキラしてます! レアカードですよ!」


教授 「ヒカリモノに弱いというメスの心理を上手くついた作戦じゃな」


藤村 「ひょっとすると、我々が思っている以上の知能を持っている可能性もありますね」


教授 「うむ。まぁ、いかんせんデータが少ないので、今回は偶然かもしれないが、研究する価値はあるな」


藤村 「博士! また鳴き声が変わりましたよ!」


教授 「どうやら、決めにかかってるようじゃな」


吉川 「お願い! 先っちょだけだから! ね? ね?」


教授 「極めて我々の使用している言語に近い鳴き声を有するのだな」


藤村 「だとしたら、なんというか最低ですね」


教授 「どうやら、交渉は成立したようだな」


藤村 「メスもメスだなぁ」


教授 「いよいよここからが楽しくなってきた」


藤村 「教授、これは研究目的ですよね?」


教授 「もちろんじゃ!」


藤村 「そうですよねぇ」


教授 「ワクワクするなぁ」


藤村 「教授、あくまで研究目的ですよね?」


教授 「もちろんじゃ!」


藤村 「そうですよねぇ」


教授 「なんか興奮してきたな」


藤村 「教授っ!」



暗転




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