絶叫! 流しソーメンコースター


吉川 「暑いですね」


博士 「ふむ、そうじゃな」


吉川 「こう、蒸すと食欲がなくなりますね」


博士 「そ、そうじゃろ?」


吉川 「なにを急にそわそわしてるんですか?」


博士 「いや、食欲がなくなるとなんか軽いもの食べたいよね?」


吉川 「そうですね」


博士 「なに?」


吉川 「え、なにって。そーめんとか?」


博士 「それじゃ! 吉川くん!」


吉川 「なんですか、急に」


博士 「その言葉を待っておった!」


吉川 「え」


博士 「ジャジャーン! 新発明。絶叫! 流しソーメンコースター」


吉川 「うわぁ、また珍発明を出してきた」


博士 「実は半年前に完成してたんじゃが、出すきっかけがなくて」


吉川 「もしかして、僕のソーメン食べたい発言を待ってたんですか?」


博士 「長い戦いじゃった」


吉川 「無意味な戦いをしてるなぁ」


博士 「君の食欲がなくなるように、エアコンの設定温度を高めにしたり」


吉川 「微妙な嫌がらせだ」


博士 「毒を盛ったり」


吉川 「殺す気か!」


博士 「しかし、念願かなってこの流しソーメンコースターのお披露目じゃ」


吉川 「毒をもった件は有耶無耶にされた」


博士 「このコースターの見所は、ズバリここ! 恐怖の一回転!」


吉川 「恐怖よりも何よりも、必然性が感じられない」


博士 「いまだかつて人類は、目の前を回転するソーメンにはお目にかかったことはないはずじゃ!」


吉川 「そりゃないし、見たいとも思ってないはず」


博士 「人類の夢が今ここに!」


吉川 「ソーメンを回転させたいと夢見てる人なんていない」


博士 「この回転には人類の技術の粋を総結集させた」


吉川 「へー」


博士 「挫折とソーメンの繰り返しだったよ」


吉川 「地味な食生活だなぁ」


博士 「しかし人類はソーメンに打ち勝った!」


吉川 「ソーメンに負けている人類の方がよっぽど少ない」


博士 「この発明のヒントとなったのは、意外にもジェットコースターじゃった」


吉川 「全然意外じゃない。もともとパクッてるじゃないか」


博士 「具体的に説明をしよう」


吉川 「別にいいです」


博士 「まず、ソーメンはこの入り口からジェット水流で勢いよく放出される」


吉川 「早くもソーメンの危機っぽい」


博士 「この時の初速は実に180ソーメン」


吉川 「待て待て、なんだそのオリジナルの単位は」


博士 「1ソーメンはおよそ時速1km」


吉川 「じゃ時速でいいじゃんか。なんで勝手に単位を作ってるんだ」


博士 「この噴射口は小型化するために核エネルギーを使っている」


吉川 「使うなよ。ソーメン一つに核融合するなよ」


博士 「180ソーメンで噴出されたソーメンは、この傾斜角75度の下り坂にてさらにスピードアップ。182ソーメンになる」


吉川 「2ソーメンしか増えてない」


博士 「ちなみに、この傾斜の別名はソーメンの滝」


吉川 「微塵もひねってない」


博士 「そして今回の山場、絶叫ループコースターに突入!」


吉川 「ループする必然性がいまだにわからない」


博士 「慣性の法則と我々の真心により、見事ソーメンは回転」


吉川 「なんだ真心って。しかも我々って、僕も?」


博士 「強い気持ちがソーメンを後押しするのじゃよ」


吉川 「ソーメンを押すために気なんか使いたくない」


博士 「そしてソーメンは、我々の夢を抱えたまま空へ」


吉川 「空へか。いつ食べるんだ」


博士 「元気で暮らせよー!」


吉川 「ソーメンは決して空で元気に暮らさない」


博士 「よし、では食事にするか」


吉川 「いただき」


博士 「ばかっ! なにをする!」


吉川 「え」


博士 「あぶなかったぁ。気をつけろ。もう少しで右手が吹っ飛ぶところじゃったぞ」


吉川 「ふっとぶ!?」


博士 「182ソーメンを甘く見るなよ!」


吉川 「じゃ、これどうやって食べるん」


博士 「これは、ただの観賞用じゃ」


吉川 「こんな珍発明のために僕の右手がなくなるところだったとは」


博士 「でも涼しい気分になったろ?」



暗転



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る