怪談
藤村 「お前だーーっ!」
吉川 「ぎゃぁぁぁぁあ!」
藤村 「はっはっはっは」
吉川 「超ビビッたぁ!」
藤村 「ビビり過ぎ」
吉川 「しかし、お前本当に怪談上手いなぁ。このホラーマン!」
藤村 「嬉しくないなぁ」
吉川 「ミスター怪談! 浪花の快男児!」
藤村 「快男児は全然意味が違う。東京出身だし」
吉川 「お前の怪談には常に新鮮に驚かされる」
藤村 「コツがあるんだよ。驚かす」
吉川 「へぇ、どんなの?」
藤村 「例えばさ、なにか話してみ?」
吉川 「えっと……昔々、あるところに」
藤村 「まずそれがダメね」
吉川 「えー」
藤村 「それじゃ、ただの昔話だ。もっとリアリティーを出しつつ、身近な感じにする。 ……これは俺の友達が本当にあった話なんだけどさ。とか」
吉川 「なるほど!」
藤村 「やってみ」
吉川 「これは俺の友達が、むか~し、むかし、本当にあった話なんだけど……」
藤村 「お前の友達は御老体か。昔じゃなくていい」
吉川 「そうかそうか」
藤村 「別に友達じゃなくても、兄弟とかだとより身近で怖い」
吉川 「これは俺がゾンビだって話なんだけど」
藤村 「結論急ぎすぎ! そんな告白されても困る。怖いけど」
吉川 「これは俺の友達が実際に体験した話なんだけど……」
藤村 「うん」
吉川 「おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯に行きました」
藤村 「友達はどこにいったんだ」
吉川 「友達は……南西かな」
藤村 「なんで方位なんだ。ものすごい漠然としてる」
吉川 「おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から巨大な何かが、どんぶらこと」
藤村 「何かはなんなんだ! 怖い! ある意味怖い!」
吉川 「その何かが……ゆっくりと開き……中から……オバケがでてきました」
藤村 「はい。全然ダメ」
吉川 「なにかが違う!」
藤村 「何かというか全体的に大きく間違ってるが、要点は一つだ」
吉川 「おじいさんの行方?」
藤村 「そんなの知ったこっちゃない」
吉川 「じゃ、なにさ」
藤村 「物語が平坦。もっとね、じわじわじわっときて、最後はブワー! って盛り上がると最高」
吉川 「じわじわぶわーか!」
藤村 「そうそう」
吉川 「川上から大きな桃が、じわっじわっじわっと流れてきて……」
藤村 「うわぁ、すげぇいやな予感がする」
吉川 「ぶわーとお化けが出てきました!」
藤村 「だから、そんなので誰が怖がるんだ」
吉川 「俺もそう思った」
藤村 「もっとな、……桃に赤い亀裂が入り、ミシリ……と音が鳴ったかと思うと……みつけたーっ!」
吉川 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
藤村 「な?」
吉川 「いったい何が見つかったのかわからないけど、すごい驚いてしまった」
藤村 「こういう具合に緩急を織り交ぜると、人を怖がらせられる」
吉川 「さすがだ」
藤村 「じゃ、これを踏まえて、初めからどうぞ」
吉川 「俺の友達にな……浪花の快男児がいるんだけど……お前だーっ!」
藤村 「知ってる」
暗転
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