スパイ

吉川 「前から気になってたんですが」


酢牌 「ん?」


吉川 「酢牌さんてスパイなんですか?」


酢牌 「……」


吉川 「あの」


酢牌 「前髪を遊ばせてみたんだけど、どう?」


吉川 「うわぁ! ものすごく不自然に話をそらされた」


酢牌 「バレた?」


吉川 「バレバレですよ」


酢牌 「なるべく目立たないように軽めにしようと思ったんだけど」


吉川 「そっちか! いや、遊ばせてるのはバレてないですよ」


酢牌 「バレてない?」


吉川 「前髪遊ばせてるは気づきませんでしたけど、スパイは気づきました」


酢牌 「なぜそれを!」


吉川 「名前とか」


酢牌 「フッ、これは偽名だ」


吉川 「いや、でも酢牌っていう偽名は何も偽ってないかと」


酢牌 「本当は一郎なんだけど、翔って偽って」


吉川 「下の名前か。しかも翔なんだ」


酢牌 「かっこいいでしょ?」


吉川 「いや翔ね。随分と言えば、随分なセンスですね」


酢牌 「しかし私の巧妙な偽名を見破るとは見事だ」


吉川 「結果的には見破れてませんでした」


酢牌 「とか、何だ?」


吉川 「はい?」


酢牌 「先ほど名前とかと言ったが、名前とかなんだ?」


吉川 「あぁ、あの名刺」


酢牌 「あれは再生紙だ」


吉川 「いや、材質じゃなくて。書いてあるじゃないですか、スパイって」


酢牌 「違う! 正しくは、スパイ(笑)だ」


吉川 「名刺に(笑)付けちゃダメでしょ」


酢牌 「逆に!」


吉川 「いや、逆じゃなくてスパイって書かないでしょ。普通は」


酢牌 「だからさ、スパイ(笑)だったらまさかスパイって思わないでしょ? 頭脳作戦」


吉川 「ものすごい独りよがりな頭脳作戦だ」


酢牌 「今までで気がついたのは、君がはじめてだ」


吉川 「みんな気の毒で言わなかっただけじゃ」


酢牌 「しかし秘密を知ったからには、その口を塞がねばなるまい」


吉川 「はっ!? まさか」


酢牌 「ん~」


吉川 「……」


酢牌 「ん~~」


吉川 「え?」


酢牌 「やだ、恥かかせないでよ」


吉川 「え?」


酢牌 「これでも勇気出してんだぞっ!」


吉川 「絶望的に可愛くないし、気持ちが悪い」


酢牌 「どうしても口を塞がせない気か」


吉川 「それで塞いだところで、どうするつもりなんだ」


酢牌 「その後は欲望に身を任せる」


吉川 「任せられても困る。少なくとも俺は任せない」


酢牌 「まぁ、私がスパイであることを見破った君のことだ。そう簡単に懐柔されないことは予想がついていた」


吉川 「懐柔する作戦だったんだ」


酢牌 「そこで君を見込んで、一つ伺いたいことがある」


吉川 「はっ!? まさかこの俺を仲間に引き込もうと」


酢牌 「だとしたらどうする?」


吉川 「断るっ!」


酢牌 「私もバカではない。君が断ることくらい承知だ」


吉川 「バカじゃなかったのか」


酢牌 「君に伺いたいこととはな」


吉川 「なんだ?」


酢牌 「スパイって、何すればいいの?」



暗転



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