藤村 「なぁ?」


吉川 「……」


藤村 「なぁ?」


吉川 「……」


藤村 「いい加減、際限なく餅をつくのはやめろよ」


吉川 「うるさいなぁ。俺の神聖な餅つきをじゃまするなよ」


藤村 「神聖ったって、毎日やってるじゃないか」


吉川 「おまえ、これがただの餅つきに見えるか?」


藤村 「ただの餅つき以外の何にも見えない」


吉川 「これはな、修行なんだ」


藤村 「修行?」


吉川 「そうだ。俺は将来、田舎暮らしをする」


藤村 「妙にこじんまりとした夢だな」


吉川 「その時のために!」


藤村 「餅つき?」


吉川 「そうじゃない。薪割りの練習だ」


藤村 「だったら、薪を割れよ」


吉川 「おまえ、こんな都会のコンクリートジャングルで大量に薪を割ってどうするんだ!」


藤村 「いや、餅だって一緒だろ」


吉川 「餅は食べられるじゃないか」


藤村 「食べきれてないだろ! 毎日なんだから」


吉川 「それはほら、ご近所におすそ分けしてるよ」


藤村 「ご近所の人困ってたぞ」


吉川 「え?」


藤村 「全然食べきれないから、どんどんカビちゃってくって」


吉川 「やっぱり」


藤村 「善意だけに余計たちが悪いって」


吉川 「そうだったのか! 道理で最近、餅を持ってくと留守になるところが多いと」


藤村 「居留守だよ」


吉川 「仕方がないから、玄関先に置いておくんだけど」


藤村 「お供えじゃないんだから。余計迷惑だろ」


吉川 「そうだったのか」


藤村 「まぁ、そんなに気を落とすな」


吉川 「いや、薄々は感づいていたんだ。だから」


藤村 「だから?」


吉川 「俺は、餅の新しい可能性にたどり着いた」


藤村 「へぇ」


吉川 「題して、餅アート」


藤村 「なんとなく読めてきた」


吉川 「第一弾は、バベルの鏡餅」


藤村 「バベル」


吉川 「なんと、この鏡餅は125段。全長3mにもなる。そこら辺のウェディングケーキは足元にも及ばない」


藤村 「ウェディングケーキと対抗してるのか。高けりゃいいってもんじゃないだろ」


吉川 「その通り。高い上に、美味い」


藤村 「いや、そういう意味じゃない」


吉川 「よくよく考えると、餅という素材はあらゆる形になる。つまり、芸術性の極めて高い食材と言える」


藤村 「まぁ、そうだな」


吉川 「そこで考えた。食べられるシリーズ!」


藤村 「へぇ」


吉川 「第一弾。食べられるガム」


藤村 「待て待て」


吉川 「これは、ゴックンしても大丈夫。おまけにのびるし柔らかいし、本物のガムみたい♪」


藤村 「これはただの薄い餅だ」


吉川 「第二弾。食べられる鈍器」


藤村 「鈍器」


吉川 「これはとても固く重い餅の塊。これで人を殴れば殺せる。そしてその後食べれば、完璧に証拠隠滅」


藤村 「そんな血のついた餅は食べたくない」


吉川 「鉄分の補給にも!」


藤村 「しなくていい」


吉川 「第三弾。食べられるスライム」


藤村 「もういい」


吉川 「かなりのびるぜ?」


藤村 「さんざん遊んで、手垢で黒ずんだ餅なんか食えるか」


吉川 「このように餅は無限の可能性に満ちている」


藤村 「満ちているようには見えないが」


吉川 「餅業界はこれから伸びるぜ~」


藤村 「餅だけに!」


吉川 「モチ!」


藤村 「……」


吉川 「なんだよ」


藤村 「いや、なんというか悲しい気持ちになってきた」


吉川 「はは~ん。さてはお前も餅の虜に!」


藤村 「なってない」


吉川 「とりもちに引っかかったな」


藤村 「引っかからない」


吉川 「まぁ、お前の気持ちもわからないでもない」


藤村 「憶測でモノを言うな」


吉川 「俺があんまりにも楽しそうに餅のことばっかり言うから、寂しくなったんだろ?」


藤村 「誰がヤキモチなんて……はっ!?」


吉川 「ようこそ、餅ワールドへ」



暗転



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