透明人間

吉川  「マジかよっ!?」


透明人間「マジマジ」


吉川  「はじめて見たよ! 透明人間なんて」


透明人間「見えてないけどね」


吉川  「ささわっていい?」


透明人間「いいけどさぁ。ちょっと気持ち悪いな」


吉川  「あ、あれ?」


透明人間「こっちこっち」


吉川  「あ、いた。なんか暖かい」


透明人間「そこ背中ね」


吉川  「後ろ向きかよ! 不自然だなぁ。前向いてくれよ」


透明人間「やだよ、恥ずかしいじゃん」


吉川  「なにを照れてるんだ」


透明人間「だって全裸だし」


吉川  「そう言われるとこっちも落ち着かない。部屋に全裸の人がいるなんて」


透明人間「なんか隠すものある? 靴下とか」


吉川  「隠れないだろ。靴下じゃ。いったいどこを隠す気だ」


透明人間「なんでもいい。お盆とか、桶とか」


吉川  「普通に服じゃダメなの?」


透明人間「だってもったいないじゃん! せっかく透明なのに」


吉川  「まぁそうだけどえっ!?」


透明人間「きゃっ!」


吉川  「なんか柔らかかった。ふよんふよんしてた」


透明人間「急にさわらないでよっ!」


吉川  「お、女?」


透明人間「どっちでもいいでしょ!」


吉川  「いやいやいや、女性となるとこれまた話は違ってきますよ!」


透明人間「……」


吉川  「あれ? どこいった? なにもしないから出ておいでー!」


透明人間「……」


吉川  「いや、本当! 見えないと不安だから! なんなら俺も脱ぐし」


透明人間「脱がなくていいっ!」


吉川  「いた! まぁ落ち着いて話し合いましょう」


透明人間「あんまりこっち見るなー!」


吉川  「こっちってどっちだ。だいたい見えない」


透明人間「なんか鼻息が荒い」


吉川  「元からだ! 全然冷静。なんかどこ向いて話したらいいかわからないから、やっぱ目印的なものをつけよう」


透明人間「隠すものを」


吉川  「あ、ちょうどよかった。こんなところにニプレスが!」


透明人間「……」


吉川  「ウソウソ。超嘘」


透明人間「……」


吉川  「あのね黙らないでくれるかな? 見えないから怖い」


透明人間「もう帰ります」


吉川  「待って! そんな格好じゃほら風邪ひく!」


透明人間「そんなこと言われても」


吉川  「ほら、絶対家にいたほうがいいって! 外は危ないよ! あの核戦争とか起こるかもしれないし!」


透明人間「核戦争起きたら家の中でもダメでしょ」


吉川  「そうか。でもほら、外の世界は透明人間には危険すぎる! ペンキとか振ってくる!」


透明人間「チャップリンか」


吉川  「危ないよぉ! 半透明になっちゃう!」


透明人間「いや、半透明にはならないでしょ。意味がわからない」


吉川  「心の嫌な部分とかが見えちゃう!」


透明人間「急に詩的表現になった。たしかにこんな時間に外は危ない」


吉川  「でしょ! でしょ? 決まり!」


透明人間「何もしないでよ?」


吉川  「しない! しない! え~と、甘いものでも食べます?」


透明人間「なんだ急に。気持ち悪い」


吉川  「顔色をうかがってみたりして」


透明人間「透明です」



暗転



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る