ふえる

吉川 「……」


藤村 「……」


吉川 「どうすんだよ」


藤村 「どうしようかねぇ」


吉川 「どうしようじゃないよ」


藤村 「気持ち悪いね」


吉川 「あぁ。かなり気持ち悪いな」


藤村 「元はと言えば、お前から言い出したことじゃないか!」


吉川 「だからと言って限度があるだろ!」


藤村 「まさかこんなに増えるとはな。ふえるわかめちゃん」


吉川 「バスルーム一杯とは」


藤村 「ドアの空気取り込む隙間からはみ出ちゃってるもん」


吉川 「こういう種類のエイリアンと言っても信じかねない」


藤村 「どうする?」


吉川 「どうするったって、食べるしかないだろう」


藤村 「もう無理だ。わかめ食べるにも程がある」


吉川 「俺も限界だ。すでにわかめゲージのメーターは振り切れてる」


藤村 「なんだ、わかめゲージって」


吉川 「人間が一生に食べられるわかめの総量を表したゲージだよ」


藤村 「そんなこと言ったら、俺なんかわかめゲージはおろか、隣の昆布ゲージまで侵食してる」


吉川 「いや、昆布は食べてないだろ」


藤村 「気分の問題だ」


吉川 「しかし本当にどうしよう」


藤村 「ふえるわかめの限界に挑んだのは無謀だったな」


吉川 「お前は昔っからそうだ! 前にもこんなことがあったろ」


藤村 「あぁ、流し風呂ソーメン」


吉川 「あの時もヒドイ目にあった」


藤村 「全部、湯船の下に沈んでるんだもんな」


吉川 「何が悲しくてソーメンのサルベージに一日費やさなきゃいけないんだ」


藤村 「最終的には肌によさそう。とか言いはじめて」


吉川 「ソーメン風呂だろ? 身体に絡みつく絡みつく」


藤村 「そうだ! わかめ風呂というのはどうだろう? 肌によさそうだ」


吉川 「確かにソーメンよりは肌によさそうな気はするが、残念ながら今回は湯船だけの問題じゃない」


藤村 「そうだった。バスルーム一杯のわかめだった」


吉川 「ホラー映画とかできそうだね」


藤村 「ザ・ワカメ。増殖する恐怖生命体」


吉川 「その時、頭皮に何かが起こる!」


藤村 「頭皮にって髪が黒々とするだけじゃないか」


吉川 「そっちはどう? ドライヤー作戦」


藤村 「まぁ少しは乾いて縮んだけど、バスルーム全部は無理だな」


吉川 「わかめ売れないかなぁ」


藤村 「いっそのこと、わかめが通貨にならないかなぁ?」


吉川 「そうなりゃ、俺たちは大わかめ持ちだぜ!」


藤村 「わかめの歌を作って売り出すか」


吉川 「わかめ、わかめ、わかめ~♪ わかめ~をたべ~ると~♪」


藤村 「わかめ四兄弟♪」


吉川 「その歌じゃないよ。違う筋からパクるなよ」


藤村 「どの道パクリじゃないか」


吉川 「とりあえず、バスルームのわかめを外に出そう」


藤村 「やめてくれ! 部屋が海の香りになる」


吉川 「いいじゃん。サーファー気分で」


藤村 「そんなさわやかなもんじゃない! 海女だ! 海女気分」


吉川 「ともかく出すぞ」


藤村 「お。意外と水を吸って重い」


吉川 「ワカメを使ったエクササイズってのはどうだろう?」


藤村 「いや、どうって言われてもなにをしたいんだ」


吉川 「ワカメ運動。ミネラルも補給できるし」


藤村 「考え方がどうもワカメ主体になってるな」


吉川 「そりゃ、これだけのワカメを目の当たりにしたら」


藤村 「おぉ! 見ろ! 湯船だ! 湯船が見えてきたぞ!」


吉川 「まるで砂漠のオアシス」


藤村 「いい加減疲れた。のど渇いた」


吉川 「こういうのはどうだろう?」


藤村 「どういうの?」


吉川 「粉ジュースってあるじゃん?」


藤村 「水に溶かすとジュースになる粉末か」


吉川 「あれを風呂一杯に入れてみたらどうだろう?」


藤村 「うっはぁ! 超甘そう!」


吉川 「でね、ジュース風呂に挑戦!」


藤村 「やっべぇ! 肌によさそぉ! ビタミンが浸透しそぉー」


吉川 「絶対浸透するよ! 間違いないよ!」


藤村 「俺! 早速買ってくる! 問屋で!」


吉川 「おう! キロ単位な!」



暗転



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