体温計

体温計「ちょっ! ちょっと待った!」


吉川 「んのわぁ! 体温計が喋ったっ!」


体温計「そりゃ喋るよ。声でお知らせ体温計って書いてあるじゃないか」


吉川 「えぇー!? そういう意味なの? 想像を絶するハイテクだなぁ」


体温計「ともかくお前ちょっとそこに直れ」


吉川 「体温計の癖に命令系だ」


体温計「おま、今何しようとした?」


吉川 「体温計ろうと」


体温計「そりゃわかるよ! 俺だって自分が体温計の自覚くらいはある」


吉川 「あるんだ。そんなにベラベラ喋って」


体温計「でもな、今、脇にはさもうとしただろ?」


吉川 「だって普通そうじゃない?」


体温計「ばかっ! この水銀以下!」


吉川 「それが罵倒なのかピンとこない」


体温計「まっさらな体温計をいきなり脇にやっちゃったら、もう後がないだろ!」


吉川 「後って?」


体温計「いいか、検温には普通三箇所の選択が与えられるんだ。口、脇、尻」


吉川 「はぁ」


体温計「一度脇に入ったら最後、二度と口には戻れんぞ!」


吉川 「まぁそうだよね」


体温計「もう、いきつくところは尻の穴だけだ」


吉川 「ずっと脇でいいじゃん」


体温計「バカ! 流れる水のごとく、落ちるところまで落ちてしまうものだ。それが体温計」


吉川 「イマイチ同意できないなぁ」


体温計「一度、肛門にいったが最後、二度と戻れなくなった同朋を山ほど知っている」


吉川 「そりゃ肛門じゃなぁ」


体温計「そのような悲劇は二度と起こしてはならない!」


吉川 「いや、でも脇はいいでしょ!」


体温計「バカッ! この39度以下!」


吉川 「体温で罵倒された。39度以下だと何がいけないんだ?」


体温計「お前の脇は臭い!」


吉川 「ひでぇ」


体温計「あまりの臭さに、正確な検温をする自信を無くす」


吉川 「あんまりだ」


体温計「あと、脇毛ボーボー! ジャングルもっじゃも~じゃ♪」


吉川 「そんなの仕方ないじゃないか!」


体温計「もし脇でする気なら、せめて脇毛を剃ってお風呂に入ってからにしてください」


吉川 「風邪引いてお風呂に入る体力がないんだよっ!」


体温計「別にいいけどさ嘘言うよ? 嘘の体温申告するよ?」


吉川 「うわぁ外道だ」


体温計「意地悪して、湿度とか言っちゃう」


吉川 「脇の下の湿度なんて絶望的に知りたくない」


体温計「でしょ? だからこの際、お互いに歩み寄ってだね」


吉川 「口で?」


体温計「そうそう。脇の下とか本当にやだ。軽い悪夢だよ」


吉川 「わかったよじゃ、口でする」


体温計「きゃっ! やらし~♪」


吉川 「何がだ! 自分で言ったんだろ! 検温だ」


体温計「そうだった。思わず40度超えちゃったよ」


吉川 「勝手に超えるなよ! 正確に計ってくれよ」


体温計「でもあれだよねこれって」


吉川 「ん?」


体温計「ファーストキス」


吉川 「知るかっ!」


体温計「優しく! 舌入れないで!」


吉川 「入れるかっ!」


体温計「ちょっと怖いけど勇気出して計ってみる」


吉川 「もう、うるさい。いいから計ってくれ」


体温計「ううん」


吉川 「あ~ん」


体温計「口クッサッ! 脇の4倍くっさ!」



暗転



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