35丁目の奇跡

裁判長 「本件は世間の注目を浴びている大変重要な裁判です。では冒頭陳述を」


弁護人 「被告がオタクに優しいギャルであるかどうか、いうなればこの裁判は、オタクに優しいギャルが現実に存在するのかどうかを問われることになります」


検事  「では被告人を証人として召喚します。あなたは当法定で真実のみを述べることを誓いますか?」


被告人 「誓います」


検事  「では質問をします。あなたは自分がオタクに優しいギャルであるということを信じていますか?」


被告人 「信じなきゃここには来ないし」


検事  「はいかいいえで答えて下さい」


被告人 「はい」


検事  「時に信仰とは人が生きる上で必要なものです。それを否定するのは人権の侵害にも相当する。しかし我々は知っています。信じるということと、実在するということは違うことを。この世界にはゾンビも怪獣もスーパーヒーローもいません。それを信じる人がいるだけです。ましてやオタクに優しいギャルなどいるわけがない」


弁護人 「異議あり! なんかあの検事の言い方がむかつきます」


裁判長 「異議を認めます」


検事  「え……?」


裁判長 「検事はむかつかない言い方をしてください」


検事  「……はい。では被告人はこの中でオタクだと思う人を指差してください」


被告人 「えっと、あの人と、あの人、あとあの人も」


裁判長 「(俺も俺も)」


被告人 「あとあの裁判長も」


検事  「さ、裁判長。今なにか怪しい動きをしませんでした?」


裁判長 「質問を却下します」


検事  「あ、え。……はい。被告人はそのオタクに対して優しく出来る自信がありますか?」


被告人 「自信とかわからんし。でもかわいいと思うよ」


裁判長 「では判決を……」


検事  「早い! 早いよ。まだ何もはじまってないのに」


裁判長 「そうですか? ほぼ材料は出揃ったかと」


検事  「証人をあと3人用意してます」


裁判長 「却下します」


検事  「きゃ、却下!? では被告に質問を。あなたは私をオタクだとは思いませんでしたね。それはなぜですか?」


被告  「や、なんか。ふいーんき?」


検事  「雰囲気ですか。私はこう見えても学生時代は法律オタクだなんて仲間内で言われていました。おかげでこの仕事について能力を発揮できています。そんな私がオタクではないという。被告にそれを判断する能力があるとは思えません」


弁護人 「異議あり! なんかあの検事のスーツがむかつきます」


裁判長 「異議を認めます。今の発言は記録から削除してください」


検事  「え。あ、え? ちょっと待って下さい」


被告人 「検事さん、オタクなの?」


検事  「いや、私はいわゆるサブカルチャーに関しては詳しくありませんが、最近は料理にも凝っていますし」


被告人 「えー。かわいいじゃん」


検事  「か、かわいい?」


被告人 「いーと思う。そーいうの」


検事  「いい? そうですか。質問は以上です」


裁判長 「では弁護人」


弁護人 「質問はありません」


裁判長 「では判決を下します。これは大変難しく重要な問題です。この判例は今後世界の基準にもなりえます。その点を踏まえ検討した結果、どう考えても被告人がオタクに優しいギャルではないという証拠はでませんでした。これは信仰の問題ではない。オタクに優しいギャルは存在する。今そこに、被告人として!」


歓声


被告人 「検事さん、元気だしなよー。なんか声とかカッコよかったよ。みんな、ありがとー!」


検事  「やさし……」


裁判長 「やさし……」


傍聴人 「やさし……」



暗転

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