欽ちゃんの仮装大賞

欽ちゃん「18番、夕焼け子やけ」


吉川  「先輩、いよいよあと2つ目です」


藤村  「そうだな……」


吉川  「なんか俺、すごい緊張してきちゃいましたよ」


藤村  「いつも通りの実力を発揮すれば、どうってことないさ」


吉川  「いつも通りって……いつも、欽ちゃんの仮装大賞なんかやってませんよ」


藤村  「いや、気持ち的にホラ、常に仮装の心を忘れずに」


吉川  「なんですか、仮装の心って」


藤村  「ボロは着てても、心は仮装だよ」


吉川  「心を仮装してたら、ただのボロじゃないですか」


藤村  「そうともいうな」


吉川  「あーーっ!  ヒゲが!  ヒゲがとれた」


藤村  「それはおめでとう。大人になった証だな」


吉川  「そんな気味悪い通過儀礼ないでしょ。違いますよ!  汗で、鼻の下のつけヒゲがくっつかなくなっちゃいました」


藤村  「一大事じゃないか。ヒゲがあるのと、ないのとではボロと錦くらい違うぞ」


吉川  「そんな、上手い事引用した気になられても」


藤村  「参ったなぁ……おい、汗を止めろ」


吉川  「無理です。言ってるそばから滝のように溢れてきます」


藤村  「じゃ、鼻水でくっつけろ!」


吉川  「無理ですよ。そんな粘着力ないです」


藤村  「鼻水は心の汗だ」


吉川  「何を言ってるんですか。鼻水はどっからどうみても鼻水ですよ。そもそも、汗が原因だって言ってるのに」


藤村  「よし、たったいま、とんでもないグッドアイデアを思いついた」


吉川  「なんですか」


藤村  「付け髭はちょうど、鼻の下だ。つまり、鼻でキューッと吸引してればそのパワーにより、ヒゲが落ちない。どうだ!」


吉川  「どうだって……。たしかにとんでもないアイデアですが、象じゃないんだから、そんな珍プレーできるわけないじゃないですか」


藤村  「じゃ、いますぐ、ヒゲを生やせ。もしくは鼻毛を伸ばせ。方法は、この三つに絞られた」


吉川  「絞られたって……一つも可能性がないじゃないですか。ぜんぜん絞られてませんよ」


藤村  「じゃ、もうヒゲなしで。演技力でカバーしろ」


吉川  「演技力って、ヒゲはえてる演技ですか。そんな余裕ないですよ」


藤村  「お前ならできる。うちの課のホープじゃないか。常々、俺はお前ならヒゲの生えた演技ができると思ってきた」


吉川  「仕事と関係ないじゃないですか。そんなこと常々考えないでください」


藤村  「実は、採用の時もその演技力を買ったんだ」


吉川  「こんな時に、そんな屈辱的なカミングアウトしないで下さい」


藤村  「お前ならできる。社運がかかってるんだ」


吉川  「だいたい、なんで社内命令で欽ちゃんの仮装大賞に出てるんですか」


藤村  「わが社には伝統があってな。さかのぼる事、平安末期……」


吉川  「絶対嘘だ。平安末期に欽ちゃんはいない!」


藤村  「むむむ、するどい」


吉川  「騙しとおせると思ってた方が驚きですよ」


藤村  「とにかく、この仮装大賞で合格しない限り、我々の出世の道は危うい。下手すると、リストラ……もしくは、荷馬車に揺られて売られていく」


吉川  「ドナドナじゃないですか。人身売買はまずいでしょ」


藤村  「だからこそ、勝利のためにパートナーにお前を選んだ」


吉川  「先輩……でも俺、学芸会で村人Aしかやったことないですよ」


藤村  「安心しろ。俺なんか風の役しかない」


吉川  「なんですか、風って」


藤村  「舞台袖で『ヒュー』って言うだけだ。もちろん姿は出ない」


吉川  「涙なしには語れないエピソードですね」


藤村  「悔しかったから、本番では『ヒュー』じゃなくて『ビュー』って言ってやったさ。ガッハッハ」


吉川  「武勇伝っぽく語られても……」


欽ちゃん「19番、親子丼」


吉川  「あ、いよいよ次ですよ! 緊張してきたー!」


藤村  「緊張した時は、手のひらに犬と3回書いて飲め」


吉川  「嘘を教えないで下さい。犬じゃなくて人でしょ」


藤村  「俺の国ではそうだったワン」


吉川  「嘘の上塗りで切り抜けようとしないで下さい。えーと……人……ヒト……。先輩!人ってどう書くんでしたっけ」


藤村  「お前はバカか。もしくはバカか」


吉川  「もしくはって……いや、緊張して度忘れを」


藤村  「人という字は~人と人が重なり合って~」


吉川  「衝撃的に似てない! いや、それはわかるんですが、入ると人がごっちゃになって、どっちが長いんでしたっけ?」


藤村  「そりゃ……背の高い方の人が長いんだよ」


吉川  「背の高いほうって……だから、それはどっちですか」


藤村  「心持ちスラーっとしてる方だよ」


吉川  「知らないですよ。人という字の登場人物の個性なんて!」


藤村  「ボケ担当の方だ」


吉川  「先輩、わざと言ってますか?」


藤村  「あっ! 前の組のやつら、子供を使いやがった!」


吉川  「本当だ。欽ちゃんが子供をいじってる!」


藤村  「これはやりにくくなったなぁ……。まぁ、俺たちは純粋にネタで勝負するしかないな。寿司屋だけに!」


吉川  「いやいや、別に寿司屋じゃないでしょ。サラリーマンじゃないですか」


藤村  「気持ちはいつだって寿司屋だ」


吉川  「そんなのはじめて聞いた」


藤村  「よし、そろそろだ。いくぞ」


吉川  「は……はいっ」


藤村  「会社のやつらに見せ付けてやるぞ!」


欽ちゃん「20番、リストラ社員」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る