番長

番長 「おい、そこの奴。見なれない顔だな」


吉川 「あ……。今日、転校してきました。吉川っていいます」


番長 「オレはこの学校で番長をやっている。通称、四天王だ」


吉川 「四天王って……通称なのか。他の三人は?」


番長 「いや、俺は番長だから一人だ」


吉川 「一人なのに四天王!?」


番長 「俺の名前が四天王だ。この学校で何かあったら、俺の名前をだせばいい」


吉川 「あ、ありがとうございます」


番長 「きっと気の毒そうな顔されるだろうよ」


吉川 「嫌われてるのか」


番長 「そんなことより、お前なにかスポーツはしてたのか?」


吉川 「はい。中学の頃……」


番長 「言わなくていい! 当ててみせよう」


吉川 「え……」


番長 「その上半身についた筋肉、お前さては……」


吉川 「……」


番長 「頑張り屋さんだろ!」


吉川 「い、いや。あの、そう言うのを当てるの?」


番長 「そして几帳面なA型だ」


吉川 「スポーツを当てるんじゃないのか。しかも僕、O型です」


番長 「いや、お前はきっとA型だ」


吉川 「本人が違うっていってるのに……」


番長 「そんなあなたの、今日のラッキカラーはピンクです!」


吉川 「占いか。占いだったのか」


番長 「それはさておき」


吉川 「さておかれた……」


番長 「その、ラグビーで鍛えた身体……」


吉川 「いや、ラグビーなんてやってませんが」


番長 「どれほどのもんか、俺が確かめてやるぜ!」


吉川 「え、いや。やめてください」


番長 「俺に勝ったら、番長の座は譲ってやる!」


吉川 「いりませんよ! そんなもの」


番長 「そんなものだとぉ!? 番長の名を踏みにじったな。これで喧嘩の理由ができた」


吉川 「そんな無茶苦茶な」


番長 「問答無用! やられたくなかったら、俺を倒してみな!」


吉川 「え、ええー!!」



ボカスカボカスカ



番長 「はぁ……はぁ……。お前、なかなかやるな」


吉川 「そっちこそ」


番長 「こうなったら……。これしかないな」


吉川 「ハハッ。握手か?」


番長 「いや、毒薬だ」


吉川 「なんでだよ! 普通ここは仲直りだろ!」


番長 「番長が負けたとあっちゃぁ、名が廃る」


吉川 「喧嘩で勝てよ! なんで毒薬で勝とうとするの! というか死んじゃう!」


番長 「頼む! 俺のために死んでくれ」


吉川 「いやだよ! なんでだ」


番長 「そうか。じゃ、あれだ。えーと……俺達は友達だ!」


吉川 「そんなやり取りの後じゃ、なんか納得できない」


番長 「アミーゴ!」


吉川 「豹変する奴だな」


番長 「友情の証に、これ受け取ってくれ……」


吉川 「やだよ! 毒薬じゃないか!」


番長 「毒薬だなんて冗談だよ」


吉川 「今更そんなこと言われても」


番長 「これはな……先祖代々、継ぎ足しながら使ってきた秘伝のダシ汁だ」


吉川 「なんでいきなりそんなもの貰わなきゃいけないんだ」


番長 「うちの暖簾を守ってくれ!」


吉川 「なんなんだ暖簾て、知るか、そんなもん」


番長 「いいのか? これを断ると……」


吉川 「脅しか?」


番長 「俺が大層しょんぼりするぞ」


吉川 「なんだそれは! 勝手にしょんぼりしてろ」


番長 「しかしこれで友情成立だな」


吉川 「成立しちゃったの!? いつの間に?」


番長 「男と男はこぶしで語り合う」


吉川 「だったらはじめから毒薬とか出すなよ」


番長 「あれはお茶目なジョークだ」


吉川 「自分でお茶目と言ってる」


番長 「しかしこの学校で俺と互角にやりあうなんてな……」


吉川 「い、いやぁ」


番長 「お前が四人目だ」


吉川 「そんなにいるのかよ! 番長じゃないのか!」


番長 「いや、番長だけど。他の人も結構強くてね……」


吉川 「中途半端な番長だなぁ」


番長 「よし、これで今日からお前は、副番長だ」


吉川 「やだよ、そんなの!」


番長 「なんだと!? 副番長にならないのか?」


吉川 「僕は普通の生徒としてこの学校で生活をしてきます」


番長 「そうか。じゃ、仕方ない。いやがるものを無理やりするのも悪いしな」


吉川 「すまないな」


番長 「しかし、これだけは覚えておいてくれ。お前は今日から……五天王だ」


吉川 「その名前は順番だったのか!」



暗転




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