ターミネーター
吉川 「うわっ! 裸の人だ。怖っ! 関わらないようにしよう」
藤村 「吉川さん!?」
吉川 「え……。あ、はい。そうですけど」
藤村 「よかった。よく聞いて下さい。未来からあなたを殺すための殺人ロボが送り込まれました。私はあなたを守りに来たのです」
吉川 「ええー! 私は未来でなにかするんですか?」
藤村 「それは言えません。ただ殺人ロボはメチャクチャ恐ろしいやつです。しかもかなりの省エネタイプ」
吉川 「省エネは全然恐ろしさに直結してないけど。そんなやつが……。未来から来たからあなたは裸なんですね?」
藤村 「これは趣味ですけど」
吉川 「着ろよー! ダメだよ趣味で裸の人は。全然説得力なくなっちゃった」
藤村 「考え方が古いですね。未来では個人の趣味は尊重されるんですよ」
吉川 「しょうがないだろ、古い時代だもん。現代ではダメだよ。そんな格好の人に守られたくないもの」
藤村 「そうですか。ならば戦わなくてはなりませんね。この時代にはびこる抑圧と!」
吉川 「そんなのと戦わなくていいよ。ロボと戦えロボと。なんで社会派気取ってるんだ。素っ裸のくせに」
藤村 「しかしあなたの命だけはどうしても守らなきゃいけないんです!」
吉川 「だったら服を着ろ。別に守られたくないと言ってるわけじゃない」
藤村 「クソッ! 計画は万全だったはずなのに、こんなジェネレーションギャップに阻まれるとは」
吉川 「想定してなかったの? この時代でも裸でいけると思ってた? めちゃくちゃ見積もり甘くない?」
藤村 「しかし服を着てあいつに勝てるだろうか。私のパフォーマンスを最大限に引き出すには余計な衣服は不要なのです」
吉川 「そういうタイプだったんですね。やはり何か皮膚感覚が大事だったりするような?」
藤村 「気分が乗らなくなるので」
吉川 「気分! だったら着ろよ。お前の気分一つのために、なんで裸の男と一緒に逃げなきゃいけないんだ。余計危険だろうが」
藤村 「しかたない。これをつけるか……」
吉川 「あるんじゃない! 隠すものが」
藤村 「サングラスです」
吉川 「そこじゃないだろ! 全裸でサングラスだと余計に怪しい! なんか意味性が出てきて怖いよ」
藤村 「わがままばかり言わないで下さい、父さん!」
吉川 「父さん? まさか、お前は俺の息子なのか?」
藤村 「あわわ、違います。とう……豆腐屋さん。豆腐屋さんと言ったのです」
吉川 「なんでだよ。俺は未来で豆腐屋さんやってるのか? 全然目指してないのに。そもそも未来に豆腐あるのか?」
藤村 「全く新しい技術でポリエステルごし豆腐を開発した豆腐界のトップランナーですよ」
吉川 「木綿豆腐や絹ごし豆腐みたいな? ポリエステルごし豆腐って別にこの時代でも発明できそうなアイデアだけど」
藤村 「あなたが思いつくまで誰一人として考えませんでした。そのポリエステルごし豆腐こそが、あいつらに対抗する唯一の希望なのです!」
吉川 「本当か? 殺人ロボもそのくらいのウィークポイントは克服できると思うけど」
藤村 「未来には繊維を分解するバクテリアが大発生して、豆腐も絶滅の危機だったのです」
吉川 「それで……あなたも裸ということに?」
藤村 「大発生は2ヶ月ほどで収束しましたが」
吉川 「やっぱ趣味じゃん! もうおかしいだろ! そもそも未来から来たという話自体信じがたい」
藤村 「なんで信じてくれないんだ、父さん!」
吉川 「父さんって言ったな! 豆腐屋さんのくだりはどうなったんだ」
藤村 「二人の関係を明かしたら、未来に異変が起きてしまう!」
吉川 「いいよもう。たとえ本当の息子だったとしても、お前みたいな裸のやつは嫌だ。おまわりさーん、ここに変な人がいます! 早く来てー」
藤村 「くそぉっ! 信じてくれ。殺人ロボがあんたを狙ってるんだ!」
吉川 「おまわりさーん!」
藤村 「なんてわからず屋な。今は逃げるしかない!」
吉川 「あ、おまわりさん。こっちです!」
裸警官「どうかなさいましたか?」
吉川 「ハッ!? お前、さては殺人ロボだな?」
裸警官「ナゼワカッタ?」
吉川 「裸だからだよ……」
暗転
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