変身ヒーロー

ヒーロー「変身ッ!」


怪人  「……」


ヒーロー「チェーンジ!」


怪人  「……」


ヒーロー「蒸着!」


怪人  「……」


ヒーロー「やっぱダメみたいです」


怪人  「ダメかぁ」


ヒーロー「色々試したんだけど、やっぱダメみたいで……」


怪人  「ポーズとかあってるの? 変身グッズとか」


ヒーロー「それはいつも通りなんだけどなぁ。変身スマキで太巻きを巻いて、恵方を向いて笑うってやつ」


怪人  「前から気になってたけど、めちゃくちゃ時間かかるよね、変身」


ヒーロー「太巻き巻かなきゃいけないんで」


怪人  「こないだなんか、酢飯炊くところからやってたでしょ」


ヒーロー「あぁ。最近、傷みやすい時期にきてるから持ち歩けなくて」


怪人  「できれば、もうちょっと手短にしてほしいなぁ」


ヒーロー「すみません。いろいろ気を使わせちゃって」


怪人  「いや、いいんだけどさぁ」


ヒーロー「今日、どうします?」


怪人  「どうするって言われても。変身してもらわないと困るんだけど」


ヒーロー「ですよね」


怪人  「ヒーローならともかく、生身の人間に負けたとあっちゃ、なんかばつが悪いし」


ヒーロー「でも変身出来ないからなぁ」


怪人  「それ、変身スマキ見せて」


ヒーロー「これ? いいですけど、悪用しないでくださいね。危ないから」


怪人  「あ? ……え? 何これ? なんか伸びてるけど」


ヒーロー「伸びないですよ」


怪人  「いや、だってほら。しだれ柳にさも似たりって」


ヒーロー「あーっ! やっべ! それ、変身スマキじゃなくて南京玉簾じゃん!」


怪人  「なんだよ、間違ってたのか」


ヒーロー「やっべぇ、間違えて持ってきちゃった」


怪人  「でも変身できない理由がわかってよかったね」


ヒーロー「よかったけど。なんか家とか取りに行ってる時間ないなぁ」


怪人  「そうかぁ。じゃ、とりあえずなんかヒーローっぽい格好だけでもできないかな?」


ヒーロー「格好かぁ。コスプレっぽいのでいいですか?」


怪人  「いいよ。あんまり気にしないから」


ヒーロー「じゃ、ちょっとそこのハンズ行って、なんか買ってきます」


怪人  「あぁ。頼む」


ヒーロー「なんかホント申し訳ない。ダッシュで行って来きます」


怪人  「わかった。ここにいるわ」


ヒーロー「ヒーローダッシュ!」


怪人  「……」


怪人  「……あ、さって。あ、さって。さては南京たますだ……」


ヒーロー「ヒーローキック!」


怪人  「あいたッ!」


ヒーロー「やい! 怪人め! 今日と言う今日は容赦しないぞ」


怪人  「ゲヘヘ、現れたな。……え?」


ヒーロー「来い!」


怪人  「いや、ちょっと。そのカッコはどうかなぁ?」


ヒーロー「え? ダメ?」


怪人  「ダメって言うかさ、全身タイツじゃん」


ヒーロー「一番安かったんだけど。2086円、消費税込み」


怪人  「だって、なんか色、ベージュだし」


ヒーロー「これしか残ってなくて。セーラー服とかあったんだけど、なんか趣旨違うかなぁって」


怪人  「なんつーかなぁ。ヒーローってより、うちの戦闘員っぽい」


ヒーロー「あー、そうか。どっかで見たと思ったら」


怪人  「それに負けるのはちょっとぉ」


ヒーロー「ダメっすかね?」


怪人  「ダメじゃないけどさぁ。やっぱ俺も遊びじゃないわけだし」


ヒーロー「そうっすよね。どうしましょ?」


怪人  「どうって。なんだよ、そういう目で見るなよ」


ヒーロー「すみません」


怪人  「やだなぁ、そういう態度。なんか俺、悪者みたいじゃん?」


ヒーロー「いや、俺が悪いんすよ。本当にすみません」


怪人  「いいよ。じゃ、わかったよ。今日だけだよ」


ヒーロー「マジッスか? ありがとうございます」


怪人  「あぁ。今日はなるべく手短に終わらそう」


ヒーロー「わかりました。じゃ、いきなり必殺技から」


怪人  「あー、もう、それでいいや」


ヒーロー「ヒーロービーム!」


怪人  「ギャース! やられた~」


ヒーロー「打って変わって正義のヒーロー! その名もウッカリマン!」


怪人  「ブモモモモモモ~! 巨大化ーッ!」


ヒーロー「やっべー! 今、巨大ロボ、車検に出してるんですよ」


怪人  「マジかよ!?」



暗転




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