親孝行

おっさん「若者よッ!」


吉川  「なんですか?」


おっさん「親孝行してるかね?」


吉川  「急になにを」


おっさん「君のような無軌道な若者を見ていると、いてもたってもいられない!」


吉川  「見も知らない人から無軌道と断言される覚えは無い」


おっさん「では、君はなにかの軌道にのってるのか? 衛星か? 恐怖衛星人間か!」


吉川  「恐怖衛星人間じゃ無いけど、あなたに因縁つけられるようなことはしてない」


おっさん「でたでた。何事にも無関心なシラケ世代!」


吉川  「シラケ世代ってすごい昔のやつでしょ」


おっさん「言っちゃ悪いけど、俺がちっちゃいの頃なんかなぁ」


吉川  「過ぎ去りし幻想回帰か」


おっさん「2cmだった」


吉川  「ちっちゃ! ちっちゃい頃ってサイズ!? サイズ感?」


おっさん「牛乳を飲んだらみるみる伸びたよ」


吉川  「そりゃ、みるみるだ」


おっさん「おかげで服がすぐ着れなくなっちゃうの」


吉川  「どうでもいい話しだなぁ」


おっさん「やはりシラケ世代!」


吉川  「いや、世代は関係なく話が理解できない」


おっさん「でたでた。俺が子供の頃なんか……」


吉川  「2cmだったんでしょ?」


おっさん「うるさいっ! バカの! お前のかーちゃん、山の如し!」


吉川  「なんで突然キレてるんだ。しかも罵倒の意味もわからない」


おっさん「時に、君は今いくつかね?」


吉川  「上から56、80、66、83、24,5です」


おっさん「なるほど」


吉川  「え、あの。鉢回りと、バストウエストヒップと足のサイズだったんですけど」


おっさん「うん。わかってる」


吉川  「あれですよね。あなた、他人のボケには冷たいですよね?」


おっさん「うるさい! バカ! お前のとーちゃん、きまぐれ風!」


吉川  「うちの父をシェフみたいに」


おっさん「お父さんのことを、そんな風に言うもんじゃない」


吉川  「お前だ! お前が言ったんだろうが!」


おっさん「まぁ、君はまだ若い。いくらでもやり直しがきく」


吉川  「やりなおさなきゃいけないほど失敗してない」


おっさん「今ならまだ間に合う!」


吉川  「何にだ」


おっさん「親孝行をしっかりとしなさい」


吉川  「は、はぁ」


おっさん「ほら、昔から言うだろ? 親孝行したい時に限って、夕飯もカレーかよ!」


吉川  「途中から格言じゃなくなってる。カレー主体になってる」


おっさん「せっかく親孝行しようと思ったのにさ。カレーなんだもん。昼やっぱりトンカツにすればよかった」


吉川  「心底どうでもいい教訓だ」


おっさん「俺もこの年になってな、未だに孝行する気が起きないんだよなぁ」


吉川  「じゃ、人に言うなよ! まず自分でやれよ!」


おっさん「やれるもんならやってるさ。でももう、両親は……」


吉川  「あぁ、すみません」


おっさん「一昨日グルメツアーに出かけちゃったし」


吉川  「元気じゃん! グルメるほどまでに元気じゃないか!」


おっさん「俺は置いてけぼり」


吉川  「まだ、すねをかじるつもりか」


おっさん「そうなる前に、若者である君に一言忠告をしようと」


吉川  「どうなる前だ。そんな忠告いらない」


おっさん「孝行したまえ。コーコー」


吉川  「言われなくてもしますよ」


おっさん「俺孝行をしたまえ。コーコー」


吉川  「なんだ、俺孝行って」


おっさん「俺に孝行してくれ。頼む! コーコー」


吉川  「なんで見ず知らずの人に。気持ち悪い」


おっさん「第一印象から決めてました! コーコー」


吉川  「余計気持ち悪い。あとコーコーうるさいな」


おっさん「頼むよ! 俺とお前の仲じゃないか。コーコー」


吉川  「どんな仲だ! まるっきり他人じゃないか!」


おっさん「うっさい! コーコー! お前のとーちゃん、俺!」


吉川  「そのコーコーって言ってたの、ダース・ベイダーの真似だったの?」



暗転




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